スタッフブログ
重い障がいをもつ子どもたちに季節の自然を届けるシェアリングネイチャープログラム
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
一本の電話からはじまった歩み
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
NPO法人ひまわりProject Team 代表理事の藤原千里さんから話をいただいたのは2012年のこと。重い障害をもつ子どもたち(重症心身障害児。本文では以下「重症児」)を対象に、放課後に「自然あそび」を提供できないかと「放課後子どもひろば ひまわりHAUS」の活動について相談をいただいたことからスタート。ネイチャーゲームリーダー3~4名の協力をいただきながら毎年機会をいただき、8年目となった2019年も6月5日に訪問させていただきました。
重症心身障害児とは・・・
重度の知的障害及び重度の身体障害(肢体不自由)を併せもつ(重複障害)子どもたちのことです。障害が重く、ほとんど全面的な生活介護が必要なだけでなく、てんかんなどの他、呼吸機能、嚥下機能、消化器、姿勢など医療的管理が絶えず必要とされます。
参加者である重症児の子どもたちにとって、近所の公園の自然であっても「遠い場所」でした。車いすの子どもや、寝たきりの子ども、気管切開をしている子どももいます。段差はもちろん、土埃をはじめとするさまざまな自然物に対して注意が必要な場合もあります。また体温調整の難しさから暑さ、寒さ、日差しなども外での活動を制限する要因となります。こうした状況から屋外での活動においては、医療関係者の付き添いが必要な場合があるのです。
シェアリングネイチャーならではの
自然あそびと込める願い
唐突ですが「サザエさん」の歌を思い出してみてください。オープニング、エンディングの映像に「季節の自然の様子」が流れています。参加する重症児の子どもたちも、こうしたテレビの映像を見て「今の季節の自然物」を見ているそうです。しかしそれらはあくまでも映像としての情報であり、その手触りや大きさ、細かな色合いなどは知らないかもしれません。
「見たことがある」「聞いたことがある」けれども、直接はふれたことのない自然との出会いを作り、「知っている」に変えていきたいというのが、最初にお聞きした代表理事の藤原さんの思いでした。
そこで考えたのが、子どもたちが野外に出られないなら、自然に来てもらおうという逆の発想、「季節の自然を配達しよう」です。そして季節の自然を活動場所である養護学校に届けるためにどうしたら良いかアイデアを出していきました。
プログラム(1時間)の概要(2019.6.5の実施内容)
・みんなが知ってるトトロの音楽とお話で導入
・トトロの木と落ち葉など、季節の落し物を楽しもう
・旬の野草、野の花がやってきた
・旬のハーブを楽しもう。鼻をいっぱい使おう
・昆虫観察カップで虫観察
・ドングリマラカスを作って合奏しよう
・季節のクラフトのお土産プレゼント
受け身と積極性
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
プログラム案を組み立てていくにあたり感じたことが「私自身のこれまでの経験とのギャップ」です。
ネイチャーゲームの活動は参加者が主体的に動き、自分自身の五感、感性で自然を楽しむことが特徴です。しかし重症児の子どもたちは、身体を動かすことや、発語が難しい場合もあります。このことから、こちらの提供が多くなってしまうとともに、言葉のキャッチボールも難しく、「参加者が受け身になりすぎるのではないか」と感じてしまったのです。これについて初年度にまとめた実践報告で下記のように振り返っています。
この悩みに対して代表の方に言っていただけたのが「重症心身障害をもち手足が不自由な子どもにとって、触ること自体がとても能動的なことです」という言葉です。言葉を介しての意思表示やわかちあいが難しいとき、子どもたちが受け身の状態に見えるかもしれませんが、子どもたちが興味をもつということ、そして見ようとすること、触ろうとすること、耳を傾けること、においをかぐこと、これらが「自分自身の感覚を使う」という意味で、とても能動的な状態と言えるのだと気づかせていただきました。
地域活動事例より抜粋・再編(2013 年 3 月 15 日)
そして感覚統合へ
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
本当に「知っている」とはどういうことか? 情報が溢れる社会になり、自分自身を振り返っても、安易に「知っている」と言ってしまっていると感じるときがあります。健常の子どもたちと遊ぶときにも、虫についてとてもよく知っているのに、「実物を見るのははじめて」ということがよくあります。本や図鑑から学び、たくさんの情報を知っていることは素晴らしいことですが、「本を見て知っている」と「実物を通して知っている」には大きな差があります。その差は実物を目の前にした、その子どもの輝く瞳からも伝わってきます。このことは、ひまわりHAUSの子どもたちも同様です。
ひまわりHAUSの活動目的の一つに「感覚統合」があります。たとえば、『赤+甘酸っぱい匂い+丸い+硬い+美味しい=リンゴ』と言ったつながりを理解するのは非常に難しいのですが、時間をかけて継続して刺激が入ることで理解できるようになります。五感の刺激を一つのものとして理解することができるようになり、子どもたちの興味はより一層深いものになります。身近に触れることの少ない自然界の物に対しては見ただけ、触っただけ、聞いただけでも喜べるのですが、見て、触って、聞いて、それが何かを理解できるようになることを目的にすることで継続していく価値はより高くなると思っています。
(NPO法人ひまわり Project Team 代表理事 藤原千里さん)
落ち葉を見比べると種類が違えばもちろんのこと、同じ種類でさえも一つ一つ違う姿形をしています。またつるつるした落ち葉に、ちくちくした落ち葉、季節の花々のしっとりとした感触、さまざまな香り、コロコロと転がっていく丸いドングリ、虫たちの動く様子はもちろん、その大きさや質感など、実物だからこそ持っている情報があります。実物にふれあうことで、写真や絵本、お話や歌では得られない情報が、さまざまな感覚を通して届くのです。
自然が好きなあなただから、できること
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
私たちが取り組んでいる「季節の自然配達人」の活動は、打ち合わせはほとんどしていません。リーダー一人一人が「いまの自然」について、自分自身が見つけたもの、集められるもの、持ち寄れるものを伝えあい、それぞれに準備をしてきます。庭に草花が生えている仲間は野の花を、ハーブを育てている仲間はハーブを、無農薬の畑で作業する仲間は畑に集まるキアゲハの幼虫や飛んできたモンシロチョウを、さらに会場となる施設のすぐ近くの公園で虫たちを、そして季節のクラフトは得意なメンバーがそのときに提供できるものを用意しています。あとは当日にネイチャーゲームらしく「フローラーニング」を意識して、流れを大まかに決めて、いざ本番です。 ネイチャーゲームリーダーの仲間たちはもちろん、自然が好きな人たちは、日ごろから身近な自然にアンテナを張っていることと思います。そこにある見せたいもの、香りを楽しんでほしいもの、安全に触れる面白いものなど、届けたいものを準備すればOK。自然が好きなあなたにぜひ、こうした活動に関わっていただきたいと思いますし、また関係者の方々にはこうしたメンバーにお声掛けをいただければと思っています。
重い障害を持つ子どもたちと関わる上で
気をつけるべきこと
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
依頼をいただいた際には関係者の方々に、子どもたちと接する上での注意すべきことを必ず確認してください。私たちは大きく3つの点について気を付けています。
一つ目は一般イベントにも通じることです。大きな声が苦手な子どもがいたり、後ろから触れられるのが好きでない子どもがいたり、個別の配慮が必要な場合もあります。子どもたちを不安にさせないよう、あらかじめ情報を得ておきましょう。また逆に「好きなこと」「嬉しいこと」も聞いておけるとプログラムを組み立てたり、組み替えたりしやすくなります。
二点目が持ち込むものの消毒です。私たちの活動では虫かご、昆虫観察カップはすべて洗浄、消毒をした上で持ちこんでいます。その上で虫は直接触れないようにしています。また植物の落し物は、できるものは洗浄、消毒をし、水洗いや消毒が難しいものは日光消毒などをするようにしたり、きれいに持ち込めるよう配慮しています。消毒(アルコール消毒など)は、落ち葉の匂いなどが飛んでしまったり、変色してしまう場合もありますので、事前に確認をしておくことをおすすめします。
三つ目が健常の子どもたちと同様に接するということ。知的障害の有無は専門家でない私たちにはわかりません。重症児の子どもたちの反応が薄いことはやむを得ないことですが、反応として表すことが難しいだけかもしれません。そのため、こちらの話す言葉は理解されていると考えて話しかけています。「ひまわりHAUS」での活動においては、参加者ひとりひとりにご家族や介助者がいて、個別にフォローをしてくださいます。しかもフォローするだけでなく、子どもたちと一緒になって(あるいは率先して)、驚いたり、声をあげてくださり、その反応がまた子どもたちへの刺激となり一緒に喜んでくれます。そこには常時、わかちあいがあり、まさにシェアリングネイチャーと言える時間となっています。
だれ一人取り残さない
(Photo : NPO法人 ひまわり Project Team)
SDGs(持続可能な開発目標)は「だれ一人取り残さない」という考え方に基づいています。自然案内人である私たちネイチャーゲーム指導員が掲げてきた目標、「人が自然を尊重し共生していく社会」の創造と重なるものです。身近な自然の面白さや不思議を、あらゆる人たちが感じられる機会を作っていくことも、「だれ一人取り残さない」という考え方に通じています。この活動を通して、また一つ、私たちが作っていくべき社会の未来に向けて、出来ることを確認させていただきました。
ネイチャーゲーム指導員の方々はもちろん、多くの方に本活動が参考になれば幸いです。
参考
地域実践事例「重い障害をもった子どもたちへのシェアリングネイチャープログラム」(2013年)
ひまわり Project Team 重症心身障害児者の自立支援活動
ひまわりHAUS:20196-6:草木や生き物、初夏の自然を感じよう♪
藤田航平 ふじた こうへい
公益社団法人日本シェアリングネイチャー協会
シェアリングネイチャー組織支援室
幼い頃、両親が関わる障害者支援の活動に参加。身近に障害を持つ方がいる環境で育ちました。その経験が今に生きていることに縁を感じています。
あっちゃん、いのっち、たかさん、よっしー、そして、ひまわりHAUSのみなさまに感謝。
コメント投稿
コメント(2)
ツッチー、コメントありがとうございます!
できるところから、ひとつずつ、一緒に取り組んでいきましょう!
手応えなどぜひぜひシェアお願いします!
とても勉強になりました。ありがとうございます。
SDGsの認知度は日本は14.8%という数字。2030までに私もできるところで取り組んでみたいと思いました。
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