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イノッチファームでシェアリングネイチャー No.113〈命を殺める〉(2020.09.14)
イノッチファームでシェアリングネイチャー NO113
〈命を殺める〉
朝からずっと憂鬱な気分が続いている。目に映るものは色彩を欠き、口にするものは味がなかった。
咲き出したコスモスにも心動かず、シオカラトンボを追うこともなくすぐに視界から消えた。
こんなにも落ち込んだ気分になったのは本当に久しぶりだ。普段から感情の起伏はそれほどない方なので、喜怒哀楽もじわじわっとやってくる程度。大概のことは"風と共に去りぬ"である。
ところが、今朝の出来事は半日経った今も鉛の塊を飲み込んだようにズッシリと重くのしかかったままでいる。
原因は罠にかかったネズミだ。昨日、農機具を収納している小屋を開けたら入口に真新しい土がかなりの量積まれていた。一目でネズミの仕業と分かる。土を運び出した穴からするとかなり大きなネズミだ。
帰りにネズミ捕りの罠を仕掛けておいたら、今朝見事にかかっていた。
予想通り大きなネズミでしっぽを入れると30㎝以上にもなる。
かごの中で暴れるネズミを恐る恐る小屋から出し、じっくり眺める。クリっとした目、大きな耳、長いしっぽ、意外と細くてきれいな足の指。なかなかに愛くるしい。畑の野菜を食い荒らす害獣には見えない。
さてどうする?このまま畑に放っておいたらネコやカラスにいたぶられ、恐怖のあまり失禁するに違いない。
では、この手で殺めるか?しばらく逡巡したのち後者を選ぶ。方法は溺死。
大きめのプランターに水を張り、かごを沈めるだけ。
苦しむ様子を見たくはなかったが、しっかりと最期を見届けた。
この手で命を殺める罪悪感にさいなまれ針で刺されたように胸が痛む。かごの中で動かなくなるまで1分足らずだった。
キャベツにたかったアオムシも、カボチャの葉を食いちぎるウリハムシも今まで何百匹と殺した。
大きさは違っても生き物を殺める行為は同じなはずだ。生きることは他の生き物の命を殺めいただくこと、牛も豚も魚もそうやって口に入りこの命が長らえてきた。
そう思ったら、「たかがネズミ1匹殺めたところで何を善人ぶっているんだ」とどこかで声が聞こえる。
死んだネズミはやがてカラスや野ネコの胃袋を満たす。無駄にはならないのだ。
だが、溺死したネズミかごを持ち上げた時の何とも言えない罪悪感、穢れた手の感触、そして確かにさっきまで生きていた命の重さがずしりと伝わる。飲み込んだ唾がざらついた。
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