「木育」の普及を続け、年間14万5000人を超える人が訪れるという「東京おもちゃ美術館」館長・多田千尋さんにうかがいました。
多田千尋(ただ ちひろ)さん
明治大学卒業後、ロシア・プーシキン大学で、幼児教育、児童文化を学ぶ。東京おもちゃ美術館、ウッドスタートプロジェクト、グッド・トイ・アワードなどを運営する認定NPO法人芸術と遊び創造協会理事長を務め、乳幼児から高齢者までの遊び文化、芸術文化、世代間交流の研究と実践に取り組む。
森は“感じる”にあふれている
廃校になった小学校校舎を利用して、東京・中野にあった芸術教育研究所の付属施設「旧おもちゃ美術館」から移転、2008年にオープンした東京おもちゃ美術館。そのなかの1部屋、国産杉材でしつらえた赤ちゃん木育ひろばでは、子育て中の親子が、国産材の木のおもちゃに触れ、遊ぶ姿が見られます。
と話すのは、同館館長の多田千尋さん。理事長を務める「認定NPO法人芸術と遊び創造協会」は、同館運営のほか、赤ちゃんのファーストトイに地元産の木をつかったおもちゃをプレゼントし持続可能な国産木材活用を図る「ウッドスタート」、木のおもちゃを全国に運び、遊べる空間をつくる「木育キャラバン」など、さまざまな取り組みを展開しています。
日本を木のおもちゃ大国にしたい、という多田さんに、木のおもちゃのよさについてあらためてうかがいました。
と多田さんは言います。
東京おもちゃ美術館が普及を進める「木育」の目的は、「木が好きな人を増やす活動」。木の文化を伝え、暮らしに木を取り入れること、そして危機的状況にある日本の林業、ひいては日本の森を守ることです。多田さんは、木のおもちゃを勧めることだけで役目を果たしたと思わずに、木のおもちゃが、人と森をつなぐ接着剤の役割を果たせないかと考えているそうです。
その仕掛けについて、多田さんはこう話します。
木のおもちゃを通して木や森を身近に感じてもらう2ndステップへの仕掛けとして、同美術館では毎年、東京・新宿区の新宿御苑で、日本各地の木のおもちゃを集め、訪れた人が、芝生の上で思いっきり遊べる「森のおもちゃ美術館」を開催、人気を博しています(一般社団法人ロハスクラブと共催)。
3rdステップとして挙げた実際の森に連れ出す仕掛けは、各地域の団体と連携して「おもちゃ美術館」を全国につくること。建設中、または計画中の姉妹おもちゃ美術館を合わせると15カ所ほどになるそう。現在、公開されているのは、沖縄県国頭村の「やんばる森のおもちゃ美術館」(地元森林組合が運営主体)ほかの4カ所。2022年の6月には東京都檜原村にオープン予定です。
国産杉材の手触り、香り、色、模様などが体感できる東京おもちゃ美術館内の「あかちゃん木育ひろば」
あそびの天才たちを“ふぬけ”にさせてはいけない
自然に触れることは、子どもの育ちになぜいいのでしょうか。幼児教育の専門家でもある多田さんは次のように話します。
次元の違う五感とは?
そもそも、子どもは遊びの天才、一流プレイヤーだという多田さん。
レイチェル・カーソンが著した『センス・オブ・ワンダー』の中の一節。
多田さんは、この言葉を木育において大切な指標としているそうです。
木育×ネイチャーゲームで、その後の子育てが変わってくるんじゃないかな...
五感を使い、ある一本の木の特徴を感じとるネイチャーゲーム〈きこりの親方〉は、まさに「木育」でめざしている目的とも親和性が高いと多田さんは話します。
また、東京おもちゃ美術館のコンセプトのひとつが、多世代交流の場をつくるというものだった、という多田さん。
多田さんは、各地域の姉妹おもちゃ美術館が、ネイチャーゲームのプラットフォームとして機能する可能性があると、今後の構想を描いています。
ネイチャーゲームが、木のおもちゃと外の自然をつなぐ役割をするということ。
「木育」と「ネイチャーゲーム」のコラボで、森に人が遊ぶ姿が増え、多世代の交流が生まれる。そんなわくわくする未来が見えました。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.27 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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