ネイチャーゲーム〈宝さがし〉をしているとき、脳ではどんなことが起こっているのでしょうか。脳を活性化するのに、さらに効果的な〈宝さがし〉の楽しみ方もうかがいました。
瀧 靖之(たき やすゆき)さん
医師・医学博士。脳MRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを研究する。『生涯学習脳』(ソレイユ出版)『アウトドア育脳』(山と溪谷社)などの著書のほか、「あさイチ」(NHK)などのテレビ出演も多数。美術や音楽にも造詣が深く、趣味のスキーはSAJ1級の腕前。
〈宝さがし〉で脳、悦ぶ!
森や公園でふと落ち葉が目に止まり拾ってみると、その葉の色の美しさや葉脈の繊細さに心を奪われてしまう...皆さんにも経験があるのではないでしょうか。このような何気ない自然の落とし物を〝宝もの〟に見立て探してくるのが、ネイチャーゲーム〈宝さがし〉。この活動でつかう「宝ものリスト」は「トゲトゲのもの」「においのするもの」「おとのするもの」など、見つける過程で五感を使うように配慮されています。宝ものリストを手にした子どもたちは、すべての宝を見つけ出そうと張り切って自然探索へ。じーっと見つめたり、匂いに顔をしかめたり...。じつに生き生きとした表情を見せます。このとき、子どもの脳内では何が起こっているのでしょうか。
五感を使った自然体験が脳の発達にもたらす効果について書かれた『アウトドア育脳』(山と溪谷社)の著者、瀧靖之さんにうかがいました。
そして、〈宝さがし〉のように、なにかに注意関心をもって行う探索活動は、無意識に自然のなかを歩くよりも、脳のいろいろな領域を使っている、と瀧さんは言います。
〈宝さがし〉では、最後に参加者同士で見つけたものをシェアして、一人ひとりが拾ってきた宝ものを認めわかちあう時間を大切にしています。
「脳が発達する、活性化する」と言いますが、脳の中ではそのときどんなことが起こっているのでしょうか。
脳内伝達物質には、さまざまな種類と役割がありますが、そのひとつドーパミンは、楽しい、心地よい、うれしいといった感情を脳がキャッチしたときに放出される物質。ドーパミンは、一般に快楽物質のイメージが強いですが、やる気、学習、探求心など認知機能全般、また運動機能とも密接に関与しています。
さらに、脳の神経細胞間のネットワークを増やしていくことに大きく影響しているのが「好奇心」です。好奇心をもった状態の脳は、モチベーションと記憶に関する脳領域の活性化を高めるという研究がアメリカの神経科学者らによって発表されています。好奇心が、神経細胞ネットワークのつながりを強化するのです。
脳の加齢はその神経細胞間をつなぐネットワークが失われていく状態。一方で脳は、可塑性(かそせい)といって外からの刺激によって機能・構造が変化する性質を持っています。脳は何歳になっても、変化・成長する能力があり、加齢で失われたネットワークも増やすことができるそうです。
それでは、人生を豊かにするための知的好奇心をのばすには、何が必要か。瀧さんは次のように話します。
2つ目は、大人が楽しんでいる姿を見せること。人の能力の獲得はすべて模倣から始まります。親や周りの大人が熱中すれば、子どももはまっていく。自然体験をさせたいと子どもを連れてきたけど、親がスマホをいじってばかりいたら、子どもの、楽しい・おもしろいと感じる気持ちも半減しますよね
瀧さんは、さらに脳を活性化するのに効果的で、知的好奇心を広げるネイチャーゲーム〈宝さがし〉の楽しみ方として、
と言います。
そして、「感覚」と「知識」を結び付けることで、五感もより研ぎ澄ますようになると瀧さんは言います。
3歳の頃からの好奇心がいまも続いているーーー
蝶標本の作成や収集も趣味のひとつ。自宅には何十箱も標本があるが、瀧さんの蝶への好奇心はいまだとどまることがない。
北海道・旭川で幼少期を過ごした瀧さん。その当時抱いた好奇心は、歳を重ねてもどんどん広がっていると話します。
心が満たされると、仕事にもよい効果があるという瀧さん。専門である脳科学の分野にとどまらず、企業とも連携して研究や新事業の創出に取り組んでいます。
と話す顔は、昆虫探しに夢中になって目を輝かせる少年のころと同じなのでは、と感じました。
一方で、幼少期に自然体験を重ねても、子どもが思春期になると、自然から離れてしまってがっかりしたという親御さんからの声もよく聞きます。
これは、研究結果から導き出した理論上だけではなく、実体験としても言えるのですが......と続ける瀧さん。
「感じる」と「リアルな知識」を行ったり来たりすることで、楽しみをさらに広げるネイチャーゲーム〈宝さがし〉。その経験が、人生を豊かに生きる力になる。そんな脳トレ、自然のなかで始めてみませんか。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.28 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織、水信亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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