世界共通の「カレンダー」は欠かせないものとなっています。
ただし、世界を見回すと、その地の風土と歴史が刻まれた独自の「暦」が、
今も使われているところは少なくありません。
日本でも明治のはじめまでは、
風土に添った独自の暦が使われ
人びとの暮らしの "道しるべ" とされていました。
【NGO理事長】
松村 賢治(まつむら・けんじ)さん
32歳のときに大手建築会社を辞めヨットで世界周航の旅をする。現・一般社団法人南太平洋協会理事長。「旧暦カレンダー」の発行の他、30年以上にわたり南太平洋の島々への自立支援活動を行っている。
季節の流れを刻む暮らしの道しるべ・・・「旧暦」
ここ数年、急激な季候変動が続き「春と秋がなくなった」と思っていたら、今年(平成26年)はいつになく秋が長く「紅葉もきれいだった」と思っている方はいないでしょうか? この季候の不安定さも、集中豪雨や竜巻の多発などと同じ異常気象の一つかと、少し不安に感じたり…。
ところが「旧暦でみたら、今年(平成26年)の秋の長さは当然」というのは、27年前から『旧暦カレンダー』を発行し、旧暦での生活を推奨している松村賢治さんです。
建築士として働いていた松村さんが、この一見不可解で時代遅れに見える「旧暦の暮らし」に深くひかれていったのは、太陽と月と星の位置を読んで舵をとるヨットでの世界周航を経験してから。
そして、その暮らしが松村さんには、自然に寄り添った "まっとうな暮らし" に見えました。
といいます。
では、『旧暦』で見ると、なぜ今年(平成26年)の秋の長さは当然なのでしょう。
じつは、平成26年は旧暦では、通常の年は3か月の秋(旧暦では通常、1年を3か月ずつ春夏秋冬に分けている)が4か月ある「秋の長い年」なのだそうです。3か月の秋が4か月? そうです、なんと今年(平成26年)は旧暦では1年が13か月ある年なのです。
「旧盆」「旧正月」などは、今でもときどき耳にする言葉で、多くの人が日本には昔、今とは違う『暦』があったことを知っていると思います。
けれど『旧暦』は「現在のカレンダーより1か月遅れ」「月の運行を元につくられた太陰暦(たいいんれき)」だと思っている方も多いので…。
ところが、日本で明治のはじめまで使われていた『旧暦』は、太陰太陽暦(たいいんたいようれき)です。太陽と月、両方の運行日数から計算され、そこに長い間の経験値を加味した暮らしに役立つ「暦」。主に農業の種まきや収穫などの目安とされていましたが、漁業や季節ものの商いにも広く利用されてきました。
1年の始まりは、春の訪れを知らせる「立春」(夜がいちばん長くなる「冬至」の45日後)に近い新月の日。この日が旧暦の1月1日「旧正月」となります。
そして29日か30日周期で同じ形を見せる月の運行を元に「1か月」を数えます。ところが、こうして月の運行で12か月を数えると1年は354日。1年365日とする太陽暦とは11日の差が出ます。それを解消するために生まれたのが「閏月(うるうづき)」。19年に7回の割合で13か月の年を配し、その差を調整しているのです。
とは松村さん。
魚の回遊や植物の実りなども旧暦が示すように動くことが多いとか。そのため、「農業の他、漁業や衣料業界でも旧暦で事業計画をたてるところが最近また増えている」と松村さんはいいます。
この、日本で長らく使われてきた『旧暦』ですが、もとは中国で生まれた太陰太陽暦です。それが日本に伝わり、1400年もの間日本の気候風土に合わせて改暦が重ねられてきたのです。
「5月晴れ」は新暦5月の晴天ではなくて 旧暦5月、梅雨時の一瞬の晴れ間のこと・・・
『旧暦』を見ると、「立春」「雨水(うすい)」「啓蟄(けいちつ)」「春分」というように、1年が24の季節『二十四節気(にじゅうしせっき)』に分けられています。これは、昼と夜の長さが同じになる「春分」「秋分」のように太陽の巡りを基準に分けた太陽暦に付された日付ですので、月の巡りを基準とする太陰暦(たいいんれき)とは日にちがずれます。このため、旧暦では節供(せっく)の日にちは毎年異なるのです。
さらに『旧暦』には、二十四節気(にじゅうしせっき)をより細かく分けた『七十二候(しちじゅうにこう)』という暦注(れきちゅう)があります。これを見ると、「桜はじめて開く」「たけのこ生ず」「玄鳥(つばめ)きたる」「大雨ときどき降る」など、旧暦で暮らしていた当時の人びとが自然と親しんでいた姿が見えるようです。
新暦3月3日に「ひな祭り」を行うことの多くなった今、桃の花が桜よりも先に咲くと誤解している人が多いと松村さんは嘆きます。節供(せっく)を旧暦で祝えば、桃の花を飾るひな祭りは、桜の季節の後に来るということをすべての人が当たり前に理解するのだと。
慣れ親しんだ新暦の日々。そこに旧暦を入れて、来年は新暦と旧暦、双方で節供(せっく)の行事をしてみてはどうでしょうか。
水辺に菖しょうぶ蒲が咲き競う「端たんご午の節供(こどもの日)」
庭に桃の花がほころぶなかの「桃の節供(ひな祭り)」
そして、露地に春の七草が芽吹く旧暦1月7日(平成27年は2月25日)の「七草がゆ」
季節を愛で暮らしてきた日本人の心に、もう一歩深くふれられるかもしれません。
『旧暦カレンダー』を生活の場に置き、旧暦を意識して暮らすようになって、体調が良くなったという人の言葉を聞くことがあります。
本来、土用のころは季節が変化する時期なので体調を崩すから気をつけろ!という意味なのでしょう。用は暑さで体力が消耗し "夏ばて" になりやすい時期。鰻を食べる習慣が定着したのは、栄養価の高い鰻で精をつけて体力の回復を図ろうとした庶民の知恵だったのだと思います
とは松村さん。
旧暦にならって暮らし、季節を感じることで、食べものの旬を知り、食生活が変わったという人もいます。
太陽と月の巡りに心を添わせて『旧暦』を意識して暮らすこと。それは、きっと風の匂いや動植物のわずかな気配など、身近な季節の変化を知ることにつながります。さらには、台風の大型化や豪雨、頻繁に起きるようになった竜巻など、日本の自然にはなかった環境の異変に敏感になり、自然と人の関わりを見つめ直すきっかけになるような気がします。
今私たちが日常的に使っている『新暦』は、国際化が進む現在、世界共通のカレンダーとしてすでに定着しています。けれど日々の生活の場では、恵み豊かな四季をもつ日本に暮らすことを存分に楽しめるよう、『旧暦』を少し取り入れてみてはどうでしょうか。
秋が4か月ある今年(平成26年)は、旧暦では冬の訪れが遅いとされています。関西では厳しい冬の寒さが訪れるのはクリスマス前後ではないかとは、松村さん。
さて、今年(平成26年)の冬はどんな季節になるのでしょうか。旧暦の示すように気候は移ろうのか、ちょっと楽しみな年末です。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.7 特集(デザイン:花平和子 文:伊東久枝 イラスト:井上みさお(p.4〜5,8~9)、初澤久美(p.10)をウェブ用に再構成しました。
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