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ライフスタイル
住まう... 特集「パーマカルチャー」のデザイン(SNL2013年12月発行)
「パーマカルチャー」という言葉をご存知でしょうか?
それは、1970年代にオーストラリアで生まれた暮らし全般にわたるエコロジカルデザインで人間にとって「持続可能な環境をつくり出す手法」のひとつ。
「農」から語られることの多いこのパーマカルチャーを「住まい」を軸にご紹介します。
自然の力をかりる家
住まいの仕掛人
【一級建築士】
山田貴宏(やまだ・たかひろ)さん

早稲田大学建築学科卒。清水建設、長谷川敬アトリエ勤務を経て、2005年ビオフォルム環境デザイン室設立。国産材をはじめとする自然素材を活用した伝統的な木の家 づくりを行う。
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小さなシステムで効率的なエネルギー環境をつくることができるかがポイント。



東京・新宿から中央線で約1時間。首都圏の通勤圏内に位置しながらも、緑豊かな自然に包まれる神奈川県相模原市藤野地区。ここに山田貴宏さんがパーマカルチャーの考え方を取り入れて設計した、『里山長屋』があります。



4家族が暮らす長屋の背後には、冬には北風を防ぎ夏には涼風を届けてくれるヒノキ林。南面には夏には木陰を、冬には葉を落として太陽光を庭や室内に届けてくれる栗林、という好条件の立地です。室内に入ると、築2年の家にはまだ木の香りがあふれ、自然と呼吸が深くなります。



ここに引っ越してから家が気持ちよくて、家で過ごす時間が長くなりました。空間の空気感が違うんです。天然木や土の持つ素材の力でしょうか

とは、自ら設計したこの長屋の一住人でもある、山田さんの感想です。



じつは『里山長屋』の建築は、木組みに土壁という日本の伝統構法を基盤に、自然素材を使った外断熱や太陽熱を利用した※パッシブデザインなど、現在の技術を必要に合わせて加えています。



1本の木は、数リットルの湿気を調節するといわれます。土壁にも調湿能力や高い蓄熱性があります。照明を点けなくても室内が明るいのは、南に大きく開けた窓や扉などで外光を取り入れているだけでなく、漆喰の白壁が光を反射している効果もあります

パーマカルチャーという海外で提唱された理論をお聞きしようと訪ねた者の目と耳には、懐かしさを覚える日本家屋と山田さんのお話しが、少なからず意外に思えます。けれど・・・



パーマカルチャーの"住宅"の基本には、密閉性を高めてエアコンを駆使し内側に快適な空間をつくる"箱"としての閉じた住環境ではなく、"周囲の環境(自然)と積極的につながっていく家"という概念があります。そしてそれはまさに、安価で使いやすいエネルギーが供給される産業革命以前には、世界中のどこにでもあった、地域の自然や文化と呼応しながら建てられた伝統的な家なのです。日本の伝統家屋には、四季があり夏場に高温多湿となる気候風土と呼応した多くの知恵が詰まっています

という山田さん。



ただし、いくら土壁に蓄熱効果があっても隙間風が吹いている家では快適な室温は保たれません。そこには断熱材など、現代の技術を補う。それが『温故知新』、進化していく家づくりだといいます。



周りの環境(自然)と密にコンタクトをとることで、自然の持つ力を借りることができる。そうして住まい手が周りの環境を気にかければ、環境もよくなる

外とつながるーそこには、そのような隠された思いもあります。



※特別な機械装置を使わずに、建物の構造や材料などの工夫によって熱や空気の流れを制御し、快適な室内環境をつくりだす手法(大辞林)



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100年200年後も住み続けたいと思う家

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庭には、各家庭が管理する多彩な家庭菜園が広がる。




住まい手が”手をかけて育てられる家”がいいですよね



「持続可能な社会」の構築について考えるとき、まず話題となるのが「食料」を中心とした"自給自足"のシステムのつくり方。生活に不可欠な物資を外部からの供給に頼るのではなく、できるだけ自給するという仕組みを小さな単位でどうつくることができるかという課題です。



『パーマカルチャー』も、じつはパーマネント(持続的な/永続的な)とアグリカルチャー(農業)からつくられた造語で、このため日本でパーマカルチャーを知る人も「農的手法」と理解している人が少なくないようです。



しかし、建築に多くの資材を必要とし、冷暖房や給湯にエネルギーを消費し続ける"住宅"もまた、社会の持続性を考えるうえでは、大きなテーマです。



現在、日本の家は平均すると約30年で壊されているという統計があります。ただし、それは家の構造に耐久性がないとうのではなく、"住み続けたい"と思う人がいないために壊されているんです

スクラップ&ビルド。まさに現代日本の多くの家は大量生産大量消費の"商品"となっています。そしてそこには、産業廃棄物やシックハウス、輸入木材の大量消費がもたらす森林破壊など、多くの環境問題が生まれています。



木造でも数百年、なかには千年と機能している建築があります。では、100年住み続けてもらえる家とはどのようなものなのか・・・。それは建築にかけた"時間"と多くの人の"思い"がつまった家なのではないかと最近考えるんです

家は個人の財産です。けれど同時に「本来は"地域の財産""社会の財産"であるはず」というのが山田さんの思い。



1軒の家を、地域の材料を使い、伝統的な工法を知る職人に頼んで建てると、その地域の林業を育て、さらに風土に適した家づくりをする職人の"技"の継承にも貢献できます。多くの人が普ふ請し んに関われば、それだけの人の"愛着"がある家になる。そうすれば、当初家を建てた人がなんらかの理由で住み続けられなくなっても、壊さずに「住みたい」と思う人がきっと現れるはずです。



『里山長屋』の建築には延べ400人以上の人が関わっています。そのなかには職人さんにまざり、壁の基礎となる"竹小舞(たけこまい)"を編んだり、土壁塗りを手伝ってくれた多くの友人・知人が含まれます。



SNL03image08.png土壁の土台となる竹を編む。

地域の"ハブ"になる家

多くの人の思いが詰まった家は、そう簡単には壊されない。



山田さんが設計をした『里山長屋』のもうひとつの大きな特徴は、独立した4軒の居住空間の他に、「コモンルーム」といわれる共用スペースがあることです。ここには14畳弱の居間とキッチン、トイレ、浴室、客室などがあります。



食事やお風呂は、1軒ごとに行うより、みんなで集まってつくったり、沸かしたりしたほうが、労力もエネルギーもかかりません。使う頻度の少ない客間も、交代で利用すれば各家庭につくる必要がなくなり、スペースの節約になります。



もちろん個別に食事や入浴をしたいときのために、各家庭にも個別のキッチンや浴室が備えられています。このように「プライベートはしっかりと守りながら、協力・共有できるとことは、みんなで譲り合い助け合いながら省エネルギーな暮らしをつくる」という考え方は、北欧で生まれた「コハウジング」というもの。現在では北欧の他、アメリカやオーストラリアなど世界各地でさまざまな規模のコミュニティがつくられ、車農器具の共有なども行われています。



さらに『里山長屋』の「コモンルーム」は、居住者が利用する他、ときには地域の集会やイベントなども開かれ、多くの人が集まる場所となりました。



昔は地域ごとに地縁血縁のつながりがあり、それがセイフティネットになっていました。そのつながりが薄くなり孤独死や心の病など、さまざまな問題を抱える現代、お互いのプライバシーは守りつつも隣人と"ほどよい距離感でつながり、支え合う"という関係を築くことが必要なのだと思います

とは山田さん。



そこには"人を思いやる"気持ちとともに"面倒を見てもらう自分"を受け入れられる心を育てることも必要だといいます。「お互いさま」の関係をどのように築けるか。それは、一朝一夕にはできない、「暮らしのなかで日々トレーニングをしてくことが大切なんだと思います」と。



資源の枯渇と環境汚染という大きな負債を抱えている今、私たちは「自分の身の回りにある豊かな自然の恵みに再び目を向けることが必要」だという山田さん。そこには、"人"という自然も含まれているようです。

自然を感じ、共感し、その恵みを周りの人たちとともに享受し、また自然へと丁寧に還していく。暮らしの姿勢ひとつひとつが、シェアリングネイチャーなのだと改めて気づいた取材でした。



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住民みんなで餅つき大会。


情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.3 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、渡辺峰夫 表紙イラスト:矢原由布子)をウェブ用に再構成しました。
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