この前提を知ることは、ネイチャーゲーム〈動物の弁護士〉を実践するうえでとても大切です。
日本自然保護協会で、長く日本の自然保護の最前線に立ち、森や川をはじめ、
日本の生態系を守るため活動してきた横山隆一さんのお話から考えます。
高校生物教員をへて1982年、日本自然保護協会に就職。赤谷の森などの国有林プロジェクト、政府施策の立案参加、公務員への自然保護に関する研修などに長年たずさわり、2019年1月に同会を退職。現在も同会参与として同プロジェクトに引き続き携わるほか、執筆活動などを行う。日本イヌワシ協会副会長。
人に自然のおもしろさを伝えることが好きで、理科の教師になったという横山隆一さん。でもそこで目の当たりにしたのは、自然が大規模開発などで丸ごとなくなっていく現実でした。1970年代~1980年代初頭のことです。
その危機感から1982年24歳のとき、大学在籍中から活動に参加していた日本自然保護協会に就職しました。以来、日本の自然保護の最前線で活動、自然の価値を世の中に広め、国有林をはじめ、日本の森を守るための仕組みづくりなどに取り組んできました。
と話す横山さん。
しかし、その一方で
と言います。
Nature Game No.090〈動物の弁護士〉
複数名のリーダーが野生動物役と弁護士役に扮して、参加者の前で「動物たちを取り巻く環境の変化」や「人間の活動が動物たちに与える影響」について語るネイチャーゲームです。動物と弁護士のやり取りを聞きながら、参加者にその動物たちが置かれている状況や人間と自然の共存について考えるきっかけを提供します。
さわらなくてはいけない自然をさわっていない背景には、どんな要因があるのでしょうか。
身近な自然が失われていることに危機感を強くしていた2000年初頭、持続的な自然利用をできる地域づくりと多様な自然環境再生事業を目的に日本自然保護協会のほか、地域住民で組織する赤谷プロジェクト地域協議会、林野庁関東森林管理局の3つの中核団体が協働で立ち上げた事業があります。群馬県みなかみ町北部と新潟県県境に広がる約1万haの国有林「赤谷の森」を対象とした「赤谷プロジェクト」、今年で16年目を迎える事業です。
赤谷の森は、入口の猿ヶ京温泉から上越国境の山々まで標高差1400m、奥山にはブナ、ミズナラの自然林、里山には人工林とかつて薪炭林であったコナラ林、希少種のイヌワシ、クマタカ、ツキノワグマの生息地でもあり、かつて交易路だった旧三国街道が通じるなど、古くから人と自然がかかわり、多様な自然を育んできた背景があります。
同プロジェクトで猛禽類のモニタリング調査などを担当してきた横山さん。現在、取り組んでいる試みのひとつが、絶滅危惧種イヌワシの生息環境の質を向上させるための「狩か り場ば創出実験」です。
赤谷の森には、1つがいのイヌワシが生息しています。2003年以降12年間で4回繁殖に成功したものの、2010年以降、5年連続で失敗していました。
2015年9月に約2haの伐採を行い、伐採前の1年間と伐採後2年間のイヌワシの行動を比較する調査を実施。その結果、イヌワシが獲物を探す行動が増える状況を2年間維持。さらに、狩場創出直接の効果ではないとしながらも2016年6月、赤谷の森にすむイヌワシのつがいが、7年ぶりに子育てに成功したことが確認されました。
赤谷の森にすむイヌワシをテーマに〈動物の弁護士〉プログラムをつくるとしたら......、との問いに横山さんはこう話します。
ヒューマニズムで判断しないとは?
精緻な仕組みのひとつが「ニッチ」=(生態的地位)の違いだと横山さんは言います。イヌワシは奥山から山里を行き来し、10~20㎞もの距離を移動しながら狩りをします。そこで平均して1週間に1頭はノウサギを捕る。ノウサギは1k㎡に数家族、少なくとも10頭はいるでしょう。イヌワシが1週間に1頭ノウサギを捕っても、繁殖力の強いノウサギは、元の数に容易に戻すことができ、種の存続が脅かされることはないのです。
横山さんは、「だからといって人間の生活、社会を昔に戻せばいい、というわけではない」としたうえで、今後、人が自然と折り合いをつけていくためのひとつの示唆をくれました。
赤谷の森は、首都圏からも1時間半~2時間程度で行けます。
と横山さん。
野生とは。私たちが今後どう生きていくか。〈動物の弁護士〉を、それらを学び考え、共有する場にできたら......。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.25 特集(デザイン:花平和子 編集:佐々木香織、山田久美子 表紙イラスト:矢原由布子)をウェブ用に再構成しました。
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