地球全域に進出を果たした「ヒト」として、ともに暮らす彼らのどれだけを、彼らの何を、いったい知っているのだろう...。
個性豊かな〝地球の仲間たち〟をより深く知るためのヒントを探して動物の〝行動展示〟で注目を集める旭山動物園の、坂東元園長を訪ねてみました。
坂東 元(ばんどう・げん)さん
北海道旭川市生まれ。酪農学園大学獣医学科修士課程修了後、旭川市旭山動物園に獣医師として勤務。飼育展示係長、副園長を経て2009年より現職。著書に『夢の動物園?旭山動物園の明日』(角川学芸出版)などがある。
北海道・旭川空港からバスで約30分。バスを降りるとぷ?んと、なんともいえない獣臭が...。「あ?動物園だ」とワクワク感が湧き上がります。ただしそこは「ここが全国から連日観光客が訪れる動物園?」と一瞬とまどうほど、周辺にも園内にも晴れやかな演出はなく、素朴な日常の空気が流れていました。
そういう坂東元園長が獣医として、当時「財政難で閉園まぢか」といわれた旭山動物園に就職をしたのは、30数年前。動物たちは従来型の単調な施設で展示され、樹上で眠る習性のため高い場所でじっとしているヒョウに、「動いているところがみたい」とお客さんが石を投げることも。ならば、高いところにいても間近で見られれば眠っていても文句はないだろうと、猛獣館を設計。今、ヒョウ舎の上部を巡る通路を通ると、手の届きそうな位置でヒョウの息遣いを感じ、波打つ胸に「生きてるなー」と体温にさえ触れられたように思えます。
絶滅危惧種が取りざたされ、今でも動物園では〝珍しい〟動物が人気を呼ぶ傾向があります。ましてや、旭山動物園が行動展示を試みた数十年前、多くの動物園で飼育されているライオンやアザラシは、来園者に「なんだライオンか、つまんない」と言われていました。
毛深いタヌキには体毛の生育に亜鉛が必要なため、犬用ミルクでは亜鉛欠乏症になるとわかるまでに何年もかかったそうです。スズメの親はヒナが巣立つまでに、ヒナの数にもよりますが、なんと2000回以上も餌を運ぶのだそう。財政難の時代、旭山動物園では飼育動物の6割が近隣から待ち込まれた「保護動物」でした。
最近はバーチャルなゲームなどで簡単に知識が入り、動物でもすぐに「カブトムシはこういう生物」とわかった気になってしまうという坂東園長。
と、いうのです。
動物園の動物たちは囲われた空間のなかで一生を過ごします。「人間以外の動物は〝環境をつくり替える〟という感覚を持たない」という坂東園長。その環境で生き、生きられなくなれば誰かのせいにするのではなく、誰かを道連れにするのでもなく、〝潔く〟消えていく。それは野生の世界でも同じだと...。
そして物言わぬ〝潔い〟彼らの代弁者として、本来の彼らが住む自然環境のことを、現状のことを、動物園を通して伝えていきたいと話します。妥協をせず、つねに人として「まっすぐ彼らの目を見られる自分でいれるように」。
走行能力でみれば、ライオンは元気なシマウマは捕らえられない。捕まえらえられるのは、歳をとったものか、子どもか、病気のもの。まさに、野生の世界では、人間が〝福祉〟として守ろうとしているものから食べられていくわけです。
動物は本来、〝ひとつの命〟として切り抜かれて在るのではなく〝環境の一部〟として存在している、といいます。それは、人間も例外ではありません。
というのが坂東園長の持論。
旭山動物園では現在、園内に寄付型の飲料水自動販売機を設置し、「熱帯雨林の保全活動」を行っています。具体的には絶滅が危惧されるボルネオゾウ救護センターの運営です。
ボルネオゾウが絶滅すれば、オオカミのいなくなった日本の森のように、そこにはもう健全な熱帯雨林はなくなる。そしてその歪ひ ずみは、いつか地球全体に及び「ゾウがいなくなる未来なら、人類も根源的なところで破綻するのだと思う」と。
ただし、絶滅危惧種は多くの場合、生態系の頂点にいる動物です。ならば「底辺をしっかり守れれば、特別守らなくていい」ともいいます。底辺とは身近にいる〝普通の〟動物たち。要は、そこを大切にできるか...なのだと。
「野生動物の環境は、もう動物好きだけで守れる時代ではない」という坂東園長。動物や自然環境とまったく異なる分野で働く〝普通の人たち〟が、「これ以上はやめようよ」と思うラインが何か引ければ、未来は変わるかもしれない...。
それには、心が動かされるような〝原体験〟が必要だといいます。
自然のなかで心に残る「原体験」をつくる...それはまさにシェアリングネイチャーが目指しているものです。では、より効果的にネイチャーゲームを行うにはどのような方法があるのでしょうか。
そうすれば、その子にとってその木はもうかけがえのない木になるはずです。
現在、旭山動物園ではマレーシア・ボルネオ島での高校生キャンプをはじめ、園内での自然体験会、厳冬期野外キャンプや有機農法米作り体験など、子どもたちの「原体験」をつくる多様な試みを行っています。
という坂東園長の言葉を聞いて、ネイチャーゲームでももっともっとできることがあるような気がしてきました。
虫に悲鳴をあげていた子どもたちが、自然のなかで目を輝かせ”野生児”に変わる。ボルネオ島での高校生キャンプより
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.23 特集(デザイン:花平和子 編集:伊東久枝、佐々木香織、山田久美子)をウェブ用に再構成しました。
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