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特集:Nature Game No.119 〈ディスカバーウォーク〉...鳥の目、虫の目で見る(SNL2019年9月発行)
ネイチャーゲーム〈ディスカバーウォークSDGs版〉を使って、SDGs活動にどのように働きかけていけばよいのでしょうか?
かつて、ネイチャーゲームリーダー養成講座の講師として全国を回り、現在、沖縄本島やんばるで、環境教育・SDGsの達成に貢献する教育・研究を続ける大島順子さんにうかがいました。
今こそ!社会への感覚を研ぎ澄ませるとき
琉球大学国際地域創造学部准教授
大島 順子(おおしま じゅんこ)さん

日本ネイチャーゲーム協会(現日本シェアリングネイチャー協会)設立の中核メンバー。沖縄県国頭村在住。2007年から琉球大学国際地域創造学部准教授。環境教育学、エコツーリズム論などを専門とし、国頭村の地域づくり、生涯教育にも取り組む。(写真/久高将和)
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沖縄本島北部、国頭村。緑の樹冠が重なり合う亜熱帯の森には、濃密なエネルギーが満ちていました。ここ、やんばるの森を、琉球大学国際地域創造学部・環境教育学研究室の実習・研究フィールドに、また自身のライフワークとして、国頭村の地域づくりに携わっている大島順子さん。また、「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、2015年に国連で採択され「持続可能な開発目標」として世界が合意した17の目標「SDGs」を、ESD(Education for Sustainable Development)や環境教育にどう生かしていくかについても、指導者としてかかわっています。



1990年代は、ネイチャーゲームリーダー養成講座のカリキュラムづくりや講師を協会スタッフとともに担当。全国を回り、リーダー養成に携わってきました。



私は、ネイチャーゲームで心と体のセンスを築きあげてきたようなもの。当たりまえの生活のなかに、自然とのつながりを常に感じられる日々ですね

と笑う大島さん。



ネイチャーゲームをやっていると、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の5つの感覚を一瞬にして総動員できるようになります。そうして築きあげたセンスを、社会の課題の解決にどう活かしていけるかですね。自然だけでなく、社会の動きに対しても感覚を研ぎ澄まして世の中の変化に敏感でいることが求められているのだと思います。SDGsがさまざまな分野で取り組まれるようになった今こそ、そのセンスを発揮できるといいですね

Nature Game No.119 〈ディスカバーウォークSDGs版



あらかじめリーダーが設定したコースを歩きながら、その地域にある自然・生活・文化を再発見するネイチャーゲームです。発見する項目にSDGsの視点を盛り込むことで、身近な暮らしとSDGsを結びつけることができます。



SDGs17の目標を知り、SDGsを「自分ごと」と捉 え、具体 的なアクションへつなげるきっかけをつくります。



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ネイチャーゲームが担う役割って?

大島さんは自然を守るためには大別して次の3つの方法があると言います。



1つ目は法律や条例をつくることです。過去の出来事から学び、二度と繰り返すことのないよう社会のルールとして策定するわけです。



2つ目は、たとえばオゾン層の破壊を解決するためのノンフロンへの取り組みなど、技術革新によって環境問題の解決を図る方法です。



そして、3つ目は「教育」。つまり、普及啓発活動です。1の法律や条例の意味、役割を理解することも教育の一つの目的です。



教育は、学校や家庭以外、生涯のあらゆる時期に行われる学習活動として、地域の学びの場が重要になってくるでしょう。ネイチャーゲームの地域での展開は、その生涯学習の一端を担う大きな可能性を持っています

さらにSDGsは、ネイチャーゲームの持続的な発展のためにもよいツールになる、と大島さんは言います。



ネイチャーゲームをやる人同士は、自然が好きで、環境保全を優先に考える志向性を持った仲間です。今、求められているのは、異分野の人、接する領域が異なる人と場を共にし、そうした人にどのように伝えていけるかという点。このことは、ネイチャーゲームの今後の普及活動のためにも必要な視点です

さまざまな企業がSDGsに取り組み、注目されている今だからこそ、異分野の人とのかかわりを持てるチャンスだと。



たとえば、ふだん自然に興味のないお父さんが、自然体験をさせるために子どもをネイチャーゲームのイベントに連れてきたとします。そこで、お父さんがSDGsを切り口にしたネイチャーゲームを体験し、自分の仕事との関連を見い出し、新たな学びの場となる。あるいは企業研修、地域の生涯学習の場などこれまではネイチャーゲームと接点のなかった場で、ネイチャーゲーム×SDGsを取り入れていくことも可能でしょう。指導者にとってもチャレンジの場になります
カードづくりも、地域を知ることもSDGs!

異分野の人と場をともにするツールとしても、〈ディスカバーウォークSDGs版〉は適していると言う大島さん。



ネイチャーゲームは、生きものの世界や自然の事象に焦点をあててきたことに、その特徴がありました。その点、この〈ディスカバーウォーク〉では、カードをつくる際に自然のみならず、地域の生活文化や人間活動による影響が表れているものを入れることが大切になります。そして、地域にあった課題を盛り込むこともポイント。そこに住む人にとって、地域周辺の出来事は当たり前の感覚なので、あえて探し出すことは難しいかもしれませんが、地域を知り、歩いてカードづくりをする行動自体が『目標11住み続けられるまちづくりを』を例として、SDGsの実践につながります

大島さんは、自然のなかに入るとき、またネイチャーゲームと社会との接点を考えるときに、大切にしている視点があるそうです。



『鳥の目、虫の目で見る』という見方です。虫の目=ミクロな視点で、香りや手触りなど目の前で起こっていることを体感しながら、同時に鳥の目で社会全体を見回し、そこから地球全体の環境や社会で起こっていることを考えます。これを意識すると、自然界全体を時系列や横のつながりで考えることを可能にします。ディスカバーウォークでまちを歩く際にも『鳥の目、虫の目』で自然やまちを見ていくといいですね

でもね......、と続ける大島さん。



こうしなくっちゃって、堅苦しく考えなくてもいいんですよ。リーダーが思いもかけない項目が見つけられるかもしれないので、リーダーがつくりこまずに、ランダムに項目をあげてもいいですね。地域を歩くこと自体、楽しいことだから
目を凝らして森を見る。そこから見える社会は?

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森って同じ緑のようでも、微妙に違う色の緑が重なり合っていて、本当に美しいですよね。目を凝らし、虫の目でこの森の変化を探してみると......、そこに、倒れている木がありますね。少し俯瞰してみると倒れている木が帯のようにつながっている。ここはあのときの台風がこの谷を通ったんだな、とわかります。そこから台風の発生数、時期の変化、温暖化とのつながりについて考えてみたり

現在ここ沖縄島北部やんばるの森は、奄美大島・徳之島・西表島とともに4地域を一つのまとまりとして世界自然遺産の候補地になっています。



大島さんは、この地域が世界自然遺産となるには、たくさんの課題がある、と考えているそうです。



世界自然遺産に登録されるということは、何を意味するのか、覚悟と勇気をもって受け入れなくてはいけないのに、地域住民をはじめとした地元関係者には、それがなかなか伝わっていないという場面によく出会います。なぜ自分たちが住む周辺の地域が世界遺産に値するのか、その内容や登録後の影響などを理解するていねいな学びの場が必要です。SDGsの目標や詳細の指標などをうまく活用した、学習会、研修等の展開が望まれます。私も地域でそういった学びの場の企画や運営に取り組んでいますが、まだまだ十分ではありません

SDGsの視点、それにネイチャーゲームの「鳥の目、虫の目」で、やんばるの森とまちを歩きながら、海の豊かさは豊かな森があって守られること、沖縄の伝統的民家は日差しをさえぎり、台風の風から守るための構造であることを知りました。地元の農産物直売所では、野菜の作り手の顔が浮かび、いきいきと働く地元のお年寄りにも出会いました。



そのどれもがSDGsの目標とつながっています。



「ふりかえりの場」がもたらす気づき

〈ディスカバーウォークSDGs版〉で大切なのは、参加者が見つけた項目を発表しあう「ふりかえりの場」だと言います。



同じ地域でも10のグループがあればそれぞれ違うものを発見できるのが〈ディスカバーウォーク〉の魅力。異なる視点、さまざまな答えが出てくることを参加者が知り、シェアすること。そこに、奥深さがありそうです。



そう、そのとおり。指導者は、一定の価値観を押し付けず、各項目にどんなつながりを見出したのかをていねいに聞いていきます。さらに、どの項目を見つけるのが難しかったか。どんな点に迷ったかを聞き出すところから、対話的で深い学びにつなげていくことが可能です。カードとその答えには、自分の価値観、自分が何を大切にしているかがあらわれてくるはずです。そこで出た言葉や他者の視点、考えからお互いが影響しあい、新たな気づきを得られる〈主体的・対話的で深い学び〉が生まれていくでしょう。
森が教えてくれること。「誰ひとり取り残さない」

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水が流れ、緑の重なりから光がさしこむやんばるの森。多様な動植物の息遣いが感じられる



高校、大学は登山部。ずっと自然とのかかわりを続けてきたという大島さんですが、生まれと育ちは、東京の根津。都会の下町が原風景です。小学生の頃、自然に興味を持つようになり、中学生になると、ひとりでテントを持って東京の秋川渓谷や鳩ノ巣渓谷に通ったそう。



両親が登山好きで連れていかれたという環境でもなく、自分で勝手に興味を持ったの。山だけが好きだったのではなく、高く青い空の下を埋める山々と、その山々を覆う木々があり、林内から林縁部、そして川に続くところには多様な動植物の出入りでにぎわっている。そんな自然界に必要なすべてのものがざわめく風景に惹かれたんです

子どもの頃に惹かれた渓谷の風景が今も好きで、環境教育の道を歩み、やんばるの森に通っているという大島さん。



学生とやんばるの森の木の調査をしているのですが、成長の早い木と遅い木が森には混在し、すみ分けていて、その木一本一本にドラマがある。それぞれのペースで生きているのっておもしろいなあって。でもそこには自然界の精巧なバランスがあって、どれひとつ欠けてもこの風景は成立しない。それぞれが必要なものとして存在しているんですよね。私は自然を邪魔することなく、この風景の中で、ここにいていいんだって思える存在になりたかったのかもしれません

社会だって同じ。一人ひとりが必要な存在で、自然の一部として生きている。SDGsが目指して掲げるのは、「誰ひとり取り残さない社会」。やんばるの森を歩いた日、私たちが目指す姿を、自然に教わった気がしました。



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情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.26 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織 イラスト:井上みさお)をウェブ用に再構成しました。
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