かつて、ネイチャーゲームリーダー養成講座の講師として全国を回り、現在、沖縄本島やんばるで、環境教育・SDGsの達成に貢献する教育・研究を続ける大島順子さんにうかがいました。
大島 順子(おおしま じゅんこ)さん
日本ネイチャーゲーム協会(現日本シェアリングネイチャー協会)設立の中核メンバー。沖縄県国頭村在住。2007年から琉球大学国際地域創造学部准教授。環境教育学、エコツーリズム論などを専門とし、国頭村の地域づくり、生涯教育にも取り組む。(写真/久高将和)
沖縄本島北部、国頭村。緑の樹冠が重なり合う亜熱帯の森には、濃密なエネルギーが満ちていました。ここ、やんばるの森を、琉球大学国際地域創造学部・環境教育学研究室の実習・研究フィールドに、また自身のライフワークとして、国頭村の地域づくりに携わっている大島順子さん。また、「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、2015年に国連で採択され「持続可能な開発目標」として世界が合意した17の目標「SDGs」を、ESD(Education for Sustainable Development)や環境教育にどう生かしていくかについても、指導者としてかかわっています。
1990年代は、ネイチャーゲームリーダー養成講座のカリキュラムづくりや講師を協会スタッフとともに担当。全国を回り、リーダー養成に携わってきました。
と笑う大島さん。
Nature Game No.119 〈ディスカバーウォークSDGs版〉
あらかじめリーダーが設定したコースを歩きながら、その地域にある自然・生活・文化を再発見するネイチャーゲームです。発見する項目にSDGsの視点を盛り込むことで、身近な暮らしとSDGsを結びつけることができます。
SDGs17の目標を知り、SDGsを「自分ごと」と捉 え、具体 的なアクションへつなげるきっかけをつくります。
大島さんは自然を守るためには大別して次の3つの方法があると言います。
1つ目は法律や条例をつくることです。過去の出来事から学び、二度と繰り返すことのないよう社会のルールとして策定するわけです。
2つ目は、たとえばオゾン層の破壊を解決するためのノンフロンへの取り組みなど、技術革新によって環境問題の解決を図る方法です。
そして、3つ目は「教育」。つまり、普及啓発活動です。1の法律や条例の意味、役割を理解することも教育の一つの目的です。
さらにSDGsは、ネイチャーゲームの持続的な発展のためにもよいツールになる、と大島さんは言います。
さまざまな企業がSDGsに取り組み、注目されている今だからこそ、異分野の人とのかかわりを持てるチャンスだと。
異分野の人と場をともにするツールとしても、〈ディスカバーウォークSDGs版〉は適していると言う大島さん。
大島さんは、自然のなかに入るとき、またネイチャーゲームと社会との接点を考えるときに、大切にしている視点があるそうです。
でもね......、と続ける大島さん。
現在ここ沖縄島北部やんばるの森は、奄美大島・徳之島・西表島とともに4地域を一つのまとまりとして世界自然遺産の候補地になっています。
大島さんは、この地域が世界自然遺産となるには、たくさんの課題がある、と考えているそうです。
SDGsの視点、それにネイチャーゲームの「鳥の目、虫の目」で、やんばるの森とまちを歩きながら、海の豊かさは豊かな森があって守られること、沖縄の伝統的民家は日差しをさえぎり、台風の風から守るための構造であることを知りました。地元の農産物直売所では、野菜の作り手の顔が浮かび、いきいきと働く地元のお年寄りにも出会いました。
そのどれもがSDGsの目標とつながっています。
〈ディスカバーウォークSDGs版〉で大切なのは、参加者が見つけた項目を発表しあう「ふりかえりの場」だと言います。
同じ地域でも10のグループがあればそれぞれ違うものを発見できるのが〈ディスカバーウォーク〉の魅力。異なる視点、さまざまな答えが出てくることを参加者が知り、シェアすること。そこに、奥深さがありそうです。
水が流れ、緑の重なりから光がさしこむやんばるの森。多様な動植物の息遣いが感じられる
高校、大学は登山部。ずっと自然とのかかわりを続けてきたという大島さんですが、生まれと育ちは、東京の根津。都会の下町が原風景です。小学生の頃、自然に興味を持つようになり、中学生になると、ひとりでテントを持って東京の秋川渓谷や鳩ノ巣渓谷に通ったそう。
子どもの頃に惹かれた渓谷の風景が今も好きで、環境教育の道を歩み、やんばるの森に通っているという大島さん。
社会だって同じ。一人ひとりが必要な存在で、自然の一部として生きている。SDGsが目指して掲げるのは、「誰ひとり取り残さない社会」。やんばるの森を歩いた日、私たちが目指す姿を、自然に教わった気がしました。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.26 特集(デザイン:花平和子 取材・文:大武美緒子 編集:山田久美子、佐々木香織 イラスト:井上みさお)をウェブ用に再構成しました。
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