本間希樹(ほんま まれき)さん
アメリカ合衆国テキサス州生まれ、神奈川県育ち。東京大学理学部天文学科卒、同大学院博士課程修了。現在、国立天文台教授、水沢VLBI観測所所長を兼務。主に銀河系構造やブラックホールの研究を行う。著書に『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)、『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ』(扶桑社)など。NHKラジオ『子ども科学電話相談』の回答者も務める。
あまりにも私とかけ離れた遠い世界で、すべての物を吸い込み無にしてしまう怖い存在。それが私にとっての宇宙でありブラックホールでした。
と話す国立天文台教授・本間希樹さんの言葉に、軽いしびれが走るような衝撃が。暗黒の天体・ブラックホールに感謝!? 2019年4月、史上初のブラックホールの撮影に成功した国際プロジェクトの日本側責任者を務めた方です。
宇宙の始まりは今から138億年前。ひとつの小さなタネのようなものでした。そのタネが爆発=ビッグバンを起こし、膨張することで現在の宇宙になったとされています。
と本間さん。
今号の特集、ネイチャーゲーム〈なぜだろう なぜかしら〉は、自然を観察して「なぜだろう」と思うものを見つけ、自分なりの理由を考えます。そのあと、参加者同士、なぜだろうと思ったことと、自分が考えた理由を発表しあうというもの。たとえば、水に石を投げると波紋が広がるのはなぜ? 樹皮がこんな模様になるのはなぜ? など興味をもったことどんなことでもOK。科学的な答えを導き出すことを主体とせず、ユーモアを交えたり、想像力を働かせる楽しみを味わいます。自然の中で、なんで?どうして?と考えをめぐらせることで、自然界の「もの」や「こと」と自身のかかわりが生まれていく。同じ疑問に対して他の参加者の違う仮説を知ることで、自分の世界を広げていけるのも魅力です。
と話す本間さん。科学の世界でも、いろいろな人が意見を言い、さまざまなシナリオを立て、検証することは重要なプロセスのひとつだと言います。
ブラックホールの研究を続ける本間さんですが、天文学の道に進もうと決めたのは大学3年に上がるとき。学科を選ぶさい、エンジニア系の工学系か研究を極める理学系のうち「謎を明らかにしたい」「物事の真理を追究したい」という思いが強く理学部へ。そのなかで宇宙っておもしろそうだなと天文学科に進みました。
大学では天の川を研究。宇宙に存在する謎の物質で、いまだその存在が明らかにされていない「ダークマター(※1)」にも興味を持っていたそうです。
研究一筋、「なぜだろう」を原動力に、子どもの頃からまっすぐに進んできたように見える本間さんですが、ご本人いわく「ごく普通の子どもでした」。スポーツも好きで、小学校、中学、高校とサッカーを続けていたそうです。
大学院博士課程修了後、国立天文台に就職。その後、複数の電波望遠鏡の観測データを合成してひとつの観測データとして扱う手法、VLBI(※2)という技術に出合います。
ブラックホールを実際に見られるとしたら、天文学的には事件。それが唯一できるのがVLBI、電波望遠鏡を使った技法。この技術にかかわった研究の当人である自分が、かかわらないというのはありえない。そう思った本間さんをはじめとした有志が、アメリカに提案し国際チームをつくりました。
観測するための電波望遠鏡建設に8年。データ検証に2年。プロジェクトスタートから10年かかって、ブラックホールの姿を目にすることができた瞬間、本間さんが取材記者の質問に答えるときのわくわくした表情がとても印象的でした。
NHKの『子ども科学電話相談』で回答者を務めている本間さんは、じつは子どもに教えているのではなく、自分が子どもから教わっていると言います。
注1 ダークマター:現代物理学では、人類はじめ地球をつくっている原子などの物質全部を集めても宇宙全体の5%にしかならないと考えられている。宇宙の27%は、光も熱も出さす観測不能なダークマター(暗黒物質)で、68%は物質ですらないダークエネルギー(暗黒エネルギー)とされる。
注2:VLBI 複数の電波望遠鏡の観測データを合成して一つの観測データとして扱う手法。日本国内の4カ所(岩手県奥州市、鹿児島県薩摩川内市、東京都小笠原村、沖縄県石垣市)に設置した口径20メートルの電波望遠鏡を合成することで、直径2300キロメートルの観測網を構築している。
本間さんはブラックホールについて、「こんな天体が存在していること自体がおかしい」と熱を込めて語ります。
光さえも吸い込むとんでもなく強い重力を持つのがブラックホール。ブラックホールは銀河の成り立ちに大きくかかわっていて、最初に大きなブラックホールができて、いろいろなものを集め銀河ができたのではと考えられているそうです。
今、本間さんはじめ天文学者が真剣に取り組んでいるのは、宇宙人を探すこと。
宇宙人が住めるかもしれない惑星が宇宙にどれぐらいあるか、天文学者が研究を重ねた結果、地球に似た惑星が少ないことがわかりつつあるそうです。
さらに、SDGsの観点からも大きな意味があると本間さんは言います。
本間さんの専門である電波望遠鏡を使った宇宙研究の究極のゴールは、宇宙人が発している電波があるかないかを検証すること。
「宇宙人がいる」という仮説。その出発点となる「なぜだろう?」はどんなところにあるのか、うかがってみました。
天文学者は、宇宙以外、身近な自然のどんなことに「なぜだろう、なぜかしら?」と感じるか知りたいと思いました。
すべてはつながっていると意識すると、物の見方が変わってくるということ。
ずっと謎を解き明かしていく毎日に疲れることはありませんかと尋ねると、意外にも「疲れます(笑)」との答え。
その好きなことはどんなことでもよいけれど、みんなにぜひ星を見あげてほしいと思っているそうです。
本間さんのこの言葉と思考を携えて、自然の中に出かけたら…、見える世界がきっと変わる。宇宙と自分とのかかわりが始まるはずです。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.31 特集(デザイン:花平和子 編集:草苅亜衣)をウェブ用に再構成しました。
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