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特集:イワヒバリが私にくれたもの(SNL 37号/2022年10月号)
野鳥の姿だけでなく、鳴き声やしぐさをかわいいイラストとクスっと笑える描写で紹介する本『なつのやまのとり』。著者のpiro piro piccoloさん(以下piccoloさん)とpiccoloさんが自主制作した同タイトルの冊子を発見し、〝鳥愛〟を感じ取って書籍化を企画した大武美緒子さんのおふたりに、野鳥観察の楽しみ方とそこから広がる自然への思いを伺いました。
「鳥が好き」から広がる世界

イラストレーター/鳥の小物作家

piro piro piccolo(ぴろぴろぴっころ)さん



多摩美術大学卒業。イラストレーター。大学卒業と同時期に野鳥観察を始め、野鳥をテーマにイラストや小物を制作。自然の中でただひたすらに生きている野鳥の姿を多くの人に伝えることを目標に、かわいらしく親しみやすいイラストを心掛けている。
ウェブサイト https://iirotorii.tumblr.com



山に行く目的は野鳥に会いに行くため、というほど鳥を愛する piccoloさん。鳥の魅力はどんなところにあるのでしょう。



一番は翼があって飛べることでしょうか。小さい体で飛べることがすごいし、その姿にあこがれもあります。大きな鳥が翼を羽ばたかせずに飛び続ける様子や、その構造、機能美も好きです。
あとは、重なる部分もありますが、海を渡って違う国に行ける自由さも魅力です。私の知らない美しいものを見たり、いろいろな場所に行ったりしたのだろうな、と思うとうらやましいです。
そして、鳥はあらゆる環境にいます。それは鳥を観察する点で、どこに行っても楽しめるということ。種類は違っても、鳥は海にも山にも地球上のどこにでもいます。普通の生活で、ほかの哺乳類を見ることは多くありませんよね。身近な生きものであること思います

本格的にバードウォッチングを始めて10年。鳥愛が深まるきっかけとなったのは高山で出会ったイワヒバリの〝自由な姿〟でした。



ふだん街中で見る鳥と違って、『こんなに近づいてきていいの!?』とこちらが驚くほど人を気にしない姿がおもしろくて。自然の中では、鳥にとって人間は脅威じゃないんだな、先祖代々、人間のことを気にせずに生きてきたんだな、と感じたんです。とてもうれしくなって、それから野鳥に会うために、山に登るようになりました
鳥は秋になると低地に下りてくる。家の窓から見える日常の風景が実ははるかかなたの大自然とつながっている

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山々で見た鳥が、実は秋になると身近な公園に下りてきて、それを探すのも楽しいとpiccoloさん。



ルリビタキや日本で一番小さな鳥キクイタダキ、アオジやカケスは、身近な公園で見られることもあるんです。秋から冬は、木々の葉が落ちて見つけやすいうえに、鳥のしぐさや動き方がわかりやすいので、おすすめの季節ですよ

大武さんが続けます。



山で見た鳥を身近で見られることで、自宅の窓の自然から、遠くの山々、そこに広がる自然へと思いを馳せることができるんですよね

遠い山で羽ばたいている鳥が、いつも散歩している公園や、何気なく見上げた空にもいるなんて、わくわくしてきます!鳥が身近な自然と遠くの大自然をつなげてくれる存在なんですね。



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ただひたすらに生きている鳥。その生態を通して、自然のおもしろさや、鳥の不思議な暮らしが見えてくる

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『なつのやまのとり』には野鳥の生態、健気で一生懸命な求愛、子育ての姿も描かれています。そこにはpiccoloさんがイメージするその鳥の〝っぽさ〟も加わり、より親しみが湧いてきます。



ホシガラスという鳥は、2000メートル級の山岳地帯でしか見られないので、登山者にとってはアイドル的な存在。天敵がいない時季に子育てをする必要があるので、雪が残ってるときに繁殖をするんです。餌がないので毎年秋にマツボックリの実を取り出し、それをのどに集めて運びいろんな場所に隠しておく。冬を越して翌年の春、子育てのためにその蓄えていた実を使うんです。
でも、隠していた場所を忘れてしまうこともあって、その実がやがてハイマツの木になる。森が広がっていく手助けをしてるんです!ホシガラスはそんなことを意図しているわけもなく、ただ自然の中で生きてるだけ。実は先祖が作った森で、その子孫たちが暮らしているんですよ。おもしろいですよね

鳥の生態をより深く知ることが、いままで見えていなかった自然のおもしろさに気づくきっかけになるのですね。

鳥の求愛の様子については



鳥がなぜ、そんな鳴き声やダンスで求愛するのか、何を思っているのかなんてわかりません。想像するしかない。人間にはわからない価値観があるんですよね

とpiccoloさん。



また



たとえば、遠くの木の上で微動だにせず時間くらいじっーとしている鳥がいるんです。こっちはどんな動きをするのか観察していて早く動いてくれと思っているのに。人間とは違う時間軸なんですよ人間の気を引こうとしたり、馴れ合おうとしない姿がかっこよくて、ますます魅かれてしまいます

とも。



鳥をよく観察すると、私たちにはわからない不思議な暮らしがあることにも気づかされます。でも、鳥たちは、ただひたすらに生きているだけなんですね。


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嫌われもののカラスも一生懸命生きている。その生態がわかると親しみが生まれ、とてもやさしくなれると思う
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鳥の暮らし・生き方を知ると、見え方が変わるとpiccoloさんは続けます。



カラスはよく『人を襲う』と言われていますけど、なんで襲ってくるかといえば、そこに巣があって、子どもを守りたいから。そういう生態を知っていれば怖くないですよ。
カラスは人が無造作に出しているゴミを、餌だと思って漁っているのであって、人間がゴミをしっかりカバーして工夫をすればいいこと。一生懸命、生きているだけなのに、人のせいで嫌われているように思います。
カラスは枝をくわえてプラプラさせたり、歩いて「カー」、歩いて「カー」と楽しそうに遊んでいるような姿を見せてくれることもあり、余裕があるなと感じます。また、一度パートナーを決めると、生涯添い遂げる律儀な鳥なんです。離婚する鳥もいるんですけどね。
群れにいるのはまだパートナーが見つかっていない若いカラス。2羽でいたら夫婦だなってわかります。いつも見かける場所があれば、縄張りなんだな、なんて。そんなふうにカラスを見ると楽しいですよ



確かに生態を知ると、ぐっと親しみが湧いてきますね。しかも、とてもやさしい気持ちでカラスを見てみようと思えるから不思議です。そんなpiccoloさんが描くからこそ『なつのやまのとり』は鳥を感じることの楽しさを知り、鳥や自然へのまなざしを変えるきっかけになるはずと大武さん。この本には、



鳥を好きになって、そのまわりの自然も好きになって、鳥や環境を大切にしていくきっかけの一つになったら
というpiccoloさんの願いが込められているのです。
自然の中で共に生きている〟ことを気づかせてくれる鳥たち。鳥たちのおかげで〝私の風景〟が広がる
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鳥を観察しようとすると、目で探すだけでなく、鳴き声に耳を傾けるようになるんです。何の鳥かわからなくても、きれいな声だな、かわいいなと感じるだけで癒されます。
そして、鳥を意識するようになると、身近な鳥に気づくようになり、さらに周りの自然へと思いを馳せられるようになり、ときにはワールドワイドにもなり、私たちの見えていた風景が変わっていきます

こうした変化は



ネイチャーゲームにも通じますね

と大武さん。



ふと見える鳥の姿、雑踏の中で聞こえる鳥のさえずり......、身近な鳥のおかげで、都会にいても、家の窓を開けた瞬間の景色、屋根の上、遠くの空、そして木々のざわめきなど、いままで気に留めなかった風景に目を向け、音に耳を傾けるようになっていきそうです。



人とはまったく違う鳥の自由な生き方への憧れが鳥と共存したいという気持ちになり、世界(自然)はまだ良くなる

とpiccoloさん。



身近な鳥をきっかけに、鳥と私たちが生きている自然に思いを馳せること。それは、自然へのまなざしが変わること。鳥とともに暮らせる世界を守りたくて、できることをしたいと思ったとき、私たちの見える〝風景〟はもちろん、価値観や生き方も変わっていくのではないでしょうか。

piccoloさんがイワヒバリと出会って、さまざまな自然へと思いが広がるきっかけをもらったように、あなたの〝風景〟を広げてくれる鳥との出会いが、すぐ近くで待っているかもしれませんね。


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※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.37 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:藤田航平・豊国光菜子、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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