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企業の持つフィールドで地域社会に密着したネイチャーゲーム活動を
サッポロビール(株)静岡工場が所有するビオトープとガーデンハウス。そのフィールドを使用し、地元企業との協働事業によって広がった地域社会におけるネイチャーゲームの普及活動についてご紹介します。
サッポロビール静岡工場のビオトープ園で行われたネイチャーゲームの10回講座

※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.68」(2009年12月15日発行)より転載しています。団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。

サッポロビール(株)静岡工場が所有する49,700平方メートルのビオトープとガーデンハウス。2007年度ネイチャーゲーム研究奨励賞・普及部門の最優秀賞を受賞した静岡県協会焼津ネイチャーゲームの会の取り組みは、この広大な土地を使って07年6月.08年2月までの10回講座として行われました。地元企業との協働事業によって広がった地域社会におけるネイチャーゲームの普及活動。今回は、静岡県協会の藤田庄治さんとサッポロビール新九州工場の新井健大さんらのお話を中心に新たな展開についてもご紹介します。

行政・企業・NPOの三者協働で実現した連続講座の3つの効果
ネイチャーゲームは主に都市型公園でやっていたんですが、そこでの自然では子どもたちの心に落ちるところまでにはなかなか至らないというもどかしさを感じていたんです。それが、夏の親子講座がきっかけでサッポロビールさんのすばらしいビオトープがあることを知って、年間10回使わせてもらえないかと手持ちの資料を持ってプレゼンテーションに行ったんです。それから半年後にサッポロビールの総務の新井さんからOKをいただいて10回講座が実現し、思った以上の成果が得られました
 
サッポロビール静岡工場との協働事業のいきさつをそう語ってくれたのは、静岡県ネイチャーゲーム協会の藤田庄治さん。少年時代にボーイスカウトとして自然に親しんだ藤田さんは、幼稚園教諭として25年間幼児教育に携わり、やがて環境教育に力を入れようと常葉学園短大の非常勤講師に転職し、現在は学生を対象に指導者を養成しながらネイチャーゲームの普及に努めています。

今回の「親子自然教室」10回講座の取り組みは、行政、企業、NPOの三者協働によるもので、焼津ネイチャーゲームの会の主催事業として開催されました。きっかけは、「夏休み親子見学会」でネイチャーゲームの講師の依頼を受けていた藤田さんが、地域の会に対して、静岡県生涯学習振興協会事業である「ふじのくにゆうゆうクラブ」の受託活動としてビオトープ園での連続講座を勧めたことから。サッポロビール静岡工場のビオトープ園は、田園地帯だった条件を生かして社員の手によって雨水調整池、河川整備を進めて自然環境を整備、樹木等を移植して、野鳥や小動物、昆虫、湿性植物との共生を図った空間です。そこでは、年間50種類ほどの野鳥や多種多様な植物が見られ、豊かな自然が息づいています。

ネイチャーゲームの理念を参加者の心の中にまで落としこむには市街地にある公園では物足りなさを感じていたという藤田さんは、そんな地域の環境保全活動を推進しているサッポロビールのビオトープ園という新たなフィールドと出会ったことで、「一石三鳥の効果があった」といいます。

その3つの効果とは、
(1)四季を通じた継続的な体験によって、参加者にネイチャーゲームの目指す「自然との一体感」が深く浸透したこと
(2)連続講座によって地域の会リーダーのスキルアップにつながったこと
(3)課程認定校リーダーの実習の場としても有効に機能したこと

さらに、新井さんの社内記事「ネイチャーゲーム親子ふれあい自然教室」がサッポロビール本社で採用されたり、静岡新聞でもこの取り組みが2度にわたって掲載されるなど、多くの人たちに知られる思いがけない波及効果もあったそうです。
できるだけ幼児期から根づかせるための新しい講座もスタート

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講座は土曜日の2時間、ほぼ月1回の開催で、静岡市、藤枝市、焼津市、大井川市などから75名の親子が参加。講師の藤田さんを中心に、5、6名の地域の会の指導員が常葉学園短大保育科の学生6~10名をリードしながらファシリテーターを務めました。

第1回目のテーマは「動物のことを考えてみよう」で、進化ゲーム、〈ノーズ〉、〈私は誰でしょう〉、〈動物交差点〉、みんなの広場、木の中のリス、〈フィールドビンゴ〉、第2回目は、「ビオトープ園の自然と遊ぼう」をテーマに、〈コウモリとガ〉、〈カモフラージュ〉、〈フィールドビンゴ〉、第3回目は「夜はともだち」がテーマで、〈暗闇を照らせ〉、〈カメレオンゲーム〉、〈ナイトハイク〉、そして10回目の最終回では、「自然の素晴らしさ大切さを考えてみよう」をテーマに、〈フクロウとカラス〉などを通してこれまでの活動で学んだことを復習しました。

指導者が特に心がけたのは、家族同士のつながりで、参加者に対してなるだけ多くを語らず、一人ひとりの気づきを大切にすること。また、状況に応じて学生に任せることで実習につなげ、参加者には資料をファイリングしてアルバムを提供。保護者からも、四季折々の自然に触れられ、さまざまな気づきが得られたとの好反応があったそうです。

 

4回目くらいから、子どもたちの心に落ちた実感が得られました。アンケートをとって地道に続けていくことが大事ですね。ネイチャーゲームの普及活動をとぎれないようにするためにも、次の若い世代を育てないと...。その意味でも、地元の企業が地域社会の環境教育の拠点となる場所を与えてくれることはとってもありがたい。今年は幼児期から根づかせたいという目的で、小学生の子どもたちと保護者を対象にした親子講座を始めています



「ゆとりとわかちあいは遊び心から」を研究テーマとしている藤田さんのネイチャーゲームに対する熱い思いは、今、幼児へと注がれています。一方、サッポロビールの新井健大さんも、「大人も子どもも一緒になって楽しむことができ、自然への理解が深まる内容で感心させられた」とネイチャーゲームの可能性を実感したことから、静岡工場から大分県の新九州工場に転勤になったのを機に、大分県ネイチャーゲーム協会にイベントの開催を依頼しています。

打診を受けた大分県協会(会員23名)は、大分県森の先生派遣事業の一環として、「夏休み親子自然体験会」を受託することに。8月24日に「ネイチャーゲームで地球と遊ぼう、自然体験しよう!」と題して1日イベントを実施。小学生までの子どもとその保護者を対象に25組(約50名)の参加者に対して、地域の指導員2名が指導に当たります。

 

地元新聞社にプレスリリースを送り、日田市の広報などを通して募集の告知をしました。まずは試みとして実施し、一つの成功事例としてできれば、今後さらに一工夫して静岡工場のように継続的に行うことも視野に入れたいと思っています



と新井さん。

新九州工場でもイベント開催 広がる地域環境教育の拠点

大分県協会中津ネイチャーゲームの会の原口俊章さんとサトミさんご夫婦が県協会の事務局を引き受けたのは一昨年、それを機に新たに2つの地域の会が立ち上がり、活動はスタートしたばかり。けれど、個人的な活動は10年近くも続いているそうです。10年前、リーダー養成講座を受けたときにネイチャーゲームにカルチャーショックを受け、その普及をかねて活動を始めたという俊章さん、サトミさん。現在も月1回、畑作り、子どもエコクラブ活動、野外料理、自然観察、ハイキングなどの野外活動のなかにネイチャーゲームを取り入れています。そんな原口さんも、新井さんと同様にサッポロビール新九州工場での今後の展開に期待を寄せます。

工場内のビオトープを見て、どんぐりやいろいろな木の実が落ちて新芽が出ていたりと自然に近い状態だと感じました。新井さんから静岡での取り組みを聞いて、ネイチャーゲームを皆さんにご紹介できればということでお受けしました。対象は小学生までなので、それだけインパクトが大きいし、自然にスッーと入っていけるのではないかと思います



静岡工場の後任者も毎回講座に参加し、個人的にネイチャーゲームを学びたいと望んでいるとか。ビオトープ園は、身近な自然とともに、人々の心のつながりをも豊かにしてくれているようです。

藤田さんは、レイチェル・カーソンの最後のメッセージといわれる『センス・オブ・ワンダー』(新潮社/1996)の次の一説が大好きだといいます。

 

『生まれつきそなわっている子どもの「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」をいつも新鮮にたもち続けるためには、わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを、子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、少なくともひとり、そばにいる必要があります』



今回のように、行政の補助金等を活用し、企業とネイチャーゲームが連携するような場が増え、その場が地域の人たちの環境教育拠点として機能するならば、子どもと感動をわかちあえる大人ももっともっと増えるに違いありません。そしてそれは、「深い喜びの感覚を体験しよう」「理想をめざして実践しよう」などのシェアリングネイチャーの6原則にもつながります。その意味で今回の取り組みは、ネイチャーゲームの理念が環境行政や企業のエコ活動の場にも浸透する可能性を示唆しているともいえます。

 

数多くの企業が環境教育拠点となることを期待しています

という藤田さん。それを可能にするのは、センス・オブ・ワンダーを失わない大人たちであり、ネイチャーゲームの普及に携わるすべての人たちではないでしょうか。


取材・文/小笠原英晃
取材協力/藤田庄治 新井健大(サッポロビール)原口俊章 原口サトミ
写真提供/藤田庄治 新井健大
構  成/編集部



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