右:朝岡幸彦(あさおか ゆきひこ)
新潟大学法文学部経済学科卒業、北海道大学大学院教育学博士課程終了。室蘭工業大学工学部講師、東京農工大学農学部助教授等を経て、現国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院教授。日本環境教育学会事務局長も務める。
左:内田 隆(うちだ たかし)
明治大学農学部卒。立教大学異文化コミュニケーション研究科修了。乳業メーカー勤務後、高校の理科教諭となり、上尾東高校、大宮工業高校、浦和第一女子高等学校を経て、現在志木高等学校で教鞭をとる。日本環境教育学会会員
※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.77」(2012年3月15日発行)より転載しています。団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。
東日本大震災を引き金に起きた原発事故から1年。未だ収束をみない放射線被曝問題は高濃度汚染地域圏外でも高い関心をもたれ、被曝を恐れて屋外での自然体験活動を控える風潮がみられます。日本ネイチャーゲーム協会の会員アンケートでも、「事故後屋外プログラムへの参加者が減った」「学校やイベント主催団体から室内プログラムに切り替える要望が増えた」など、一部に自然離れが起きていることがうかがえます。
このようななか、子どもたちを自然から遠ざけないために指導者がすべきことを考えようと、2月5日東京・代々木で『放射線と自然体験活動を考える会』を行いました。
放射線被曝問題と今後の自然体験活動を考えようと開かれた研究会『放射線と自然体験活動を考える会』には、全国各地のネイチャーゲームの会員に加え、他団体で自然体験活動を行う指導者の方など総勢70名余りの方が集まり、情報の提供と率直な意見交換が行われました。
研究会のテーマは、放射線被曝問題が騒がれるなか自然体験活動をやるかやらないか・・・ではなく、「やるために指導者は何をすべきか」です。
この4時間にわたる研究会で印象的だったのは、講師を務めた東京農工大学大学院の朝岡幸彦教授が紹介した1枚の写真。そこには桜がほころぶ農村の風景が写されていました。原発事故から2か月後の、計画的避難区域に指定された福島県飯館村の写真です。
と朝岡先生はいいます。
つまり、リスクマネージメントを身につけて暮らすことが重要なのだということです。放射線測定器を使って活動場所の数値を測り、リスクを小さくする習慣をつける。これは不安を抱く人に対し、科学的データに基づいた根拠のある説得材料となります。
朝岡先生の話を聞きながら、放射線被曝問題は私たち日本人に、主体性を持った思考と判断力の鍛錬を突きつけているようにも思えました。
〇放射線とは
すべての物質はさまざまな「原子」からできています。そして「原子」のなかには不安定なものがあって壊れることがあります。原子が壊れるときには「原子のかけら(粒子の性質をもったもの)」や「エネルギー(電磁波)」が出ます。これが『放射線』と呼ばれるものです。つまり、放射線は量の差はあるものの、身の回りのほとんどの物質から出ています。また、宇宙からも放射線が常に地球に降りそそいでいます。
とくに不安定な原子が多く存在するのが、ウラン、トリウム、カリウム、ラジウムなどの原子です。そして自然界には、これらの原子を多く含む石が存在します。
〇放射線にはいくつかの種類がある
原子が壊れるときに出る「かけら」や「エネルギー(電磁波)」のことをまとめて『放射線』と呼んでいるため、放射線にはいくつかの種類があり、人体に影響を与える強さや、影響を与える範囲などに差があります。
〇放射性物質と放射能
『放射性物質』とは「放射線を出す性質をもった物質」のことで、一般的にはウランやトリウムなどを多く含む石など、多くの放射線を出す物質のことをいいます。
この『放射性物質』の「放射線を出す能力」を『放射能』といい、Bq(ベクレル)という単位で示します。
そして現在、原子炉や核爆弾などで使用されている『放射性物質』は、天然の石から壊れやすい原子だけを集めて凝縮した『人工的な放射性物質』で、天然の放射性物質よりもはるかに高い『放射能』を持っています。
〇人体への影響を表す単位=Sv(シーベルト)
放射線が人体に与える影響は、放射線の種類によって異なるため、放射線の量や放射能(放射線を出す能力)の大小(単位:Bqベクレル)だけではわかりません。そこで、それぞれの放射線による人体への影響の差を加味した、統一の単位がSv(シーベルト)です。
よく使われるのが、1時間あたりの被曝量(/h、/時)と総量(合計)で、「/h、/時」などがついていない場合は、一般的に「1年間の被曝量」を示しています。
〇医療や産業で広く利用されている『放射性物質』
放射性物質は、原子力発電のほか、『放射線』の高い透過能力を使ってレントゲンや非破壊検査を行ったり、遺伝子(DNA)を傷つける性質を用いてジャガイモの発芽防止や医療器具の殺菌を行うなど、私たちの身近なところで広く使われています。
〈会員アンケート「原発事故以降の変化」より〉
○行政主催の行事が中止になり、頼まれていた講師活動ができなかった。
○落ち葉にさわるのはよいが、大地の窓は避けようと自粛した。
○まちがった認識がメディアで伝わり、自然を怖がる状況が出てくることが怖い。
○口に入れる活動は積極的にはすすめられなくなった。
○活動内容を迷う事がでてきた。
○主催者から落ち葉や土に触れる活動を避けるように依頼された。
○地元小学校の年4.5回あった里山保全活動の回数が減った。
○自然体験活動を推進する者として、放射線問題に関する認識をもち、正しい情報を伝達していく義務を感じる。
○保護者がいかに安心して子どもを出すか、その情報提供としてのしくみづくりが必要。
○放射線の影響(特に子どもたち)を極力減らし、自然とふれあい学ぶ場(機会)を守っていきたい。
〈感想〉
○関西以南では、市民の危機感は薄く、活動にも影響はないように見えるが、アンケート回収率の高さから見ても、指導者の関心が高いことがうかがえる。
○知識や情報が不足しているため漠然とした不安を持っているようすが見える。
取材協力/朝岡幸彦 内田 隆
写真提供/日本協会
構 成/編集部
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