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福祉
ネイチャーゲームの癒し力
森林療法の第一人者の降矢英成医師、植物療法の専門家である林真一郎さん、さらに一般の方々にもネイチャーゲームを体験していただき、ネイチャーゲームが"癒しや健康"にどのように効果があるのかを探ります。
森林療法&植物療法のエキスパートたちから見たネイチャーゲームの癒し力とは?

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降矢英成さん プロフィール


赤坂溜池クリニック院長。人間を全体的な視点から捉えるホリスティック医学の理念をモットーとして、心療内科を中心に、帯津三敬病院、統合医療ビレッジなどでも診療を行なっている。NPO法人日本ホリスティック医学協会常任理事、メディカルハーブ広報センター常任理事。著書「森林療法ハンドブック」。

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林真一郎さん プロフィール


薬剤師。グリーンフラスコ株式会社代表。ソフィアフィトセラピーカレッジ代表。日本ホリスティック医学協会運営委員、日本メディカルハーブ協会理事。ホリスティック医学としてのアロマテラピーやハーブ療法の普及に取り組んでいる。著書「メディカルハーブの事典」他多数。



※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.70」(2010年6月15日発行)より転載しています。団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。

ネイチャーゲームの体験者の多くが、「自然に癒された」「自然から元気をもらった」との感想を述べるように、指導者の方々も、ネイチャーゲームが癒しや健康につながる活動だと実感しているのではないでしょうか。しかし、"ネイチャーゲームの具体的な効果"についてはこれまであまり検証はされてきませんでした。そこで今回、森林療法の第一人者の降矢英成医師、植物療法の専門家である林真一郎さん、さらに一般の方々にもネイチャーゲームを体験していただき、ネイチャーゲームが"癒しや健康"にどのように効果があるのかを探ってみたいと思います。

自律神経の測定によって癒し&健康効果を調査
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今回、ネイチャーゲームの癒し&健康効果を調査するという目的での体験会が行われたのは5月6日(木)、場所は東京都内の戸山公園です。参加者は8名で、ほとんどがネイチャーゲーム初体験とのことでした。講師は、指導者育成、エコツアー、国際プロジェクトなどを長く担当していたトレーナーの三好直子さんが務めてくれました。

今回、癒し&健康効果を調査する方法として選んだのは、自律神経バランス分析法。指先につけたセンサーから心拍リズムを読み取り、一拍一拍毎の脈拍のゆらぎを解析することで自律神経の健康度やバランスが数値化され、ストレス抵抗度などがわかります。体験前に降矢先生(医師)が7名の参加者の自律神経の測定を行い、その後公園内へ。

最初のアクティビティは〈かさね色〉。各自が森の中の様々な色を探し、白紙の短冊に色紙を2枚貼り合わせて自分なりのタイトルを付けます。続いて〈サウンドマップ〉。一人きりになって周囲から聞こえてくる音をイメージした記号や線で描き、地図で表現します。最後は〈目かくし歩き〉。二人組になって一人が目隠しをし、もう一人がパートナーを誘導しながら様々な自然の表情を感じさせるように連れて歩きます。それぞれの体験後のシェアリングでは、笑いや「なるほど?」といった共感の声が響き、1時間半という時間があっという間に過ぎたよう。さて、ネイチャーゲーム体験前と体験後ではどのような変化があったのでしょうか? まずは参加者の感想からご紹介しましょう。
癒し産業に関わる参加者たちがネイチャーゲーム体験から得たものとは?

●鈴木こずえさん(ボディセラピスト):
音を絵で表現するのは初めてで、普段使っていない脳や感覚器を使った感じがしました。〈目かくし歩き〉でも五感がフル回転!木や葉を触った感覚も普段より研ぎ澄まされていたように思います。これからは目からの情報だけでなく、感覚器官ももっと活用してみたいです。終わってみたら身体の力がとても抜けていて、リラックスしていました。

●林 恵里さん(ツリーイングクライマー):
普段あまり意識することのない五感を使ってワクワクしたり、ホッとしたり。大樹に寄りかかって腰掛けていたら大きな安心感に包まれて、森の心地よさを感じていました。五感を意識することで、より多くの癒しを得られたような気がします。でも、どんな森でも癒しは得られるのかなぁと、考えてしまいました。

●宮内加奈子さん(アロマセラピスト):
普段なかなか意識しない五感を改めて感じる時間。どれもワクワクする体験ばかりで、子どもの頃、自然にやっていたようなことでした。そして五感をバランスよく使ってあげると体と心がこんなに喜ぶんだと気づきました。どこででもできる贅沢な自然とのセッション。身近な自然でもやっていきたいです。

●松尾祥子さん(アロマセラピスト):
自律神経の測定の時は緊張しました。でも、木々の緑、土、光、爽やかな風、講師の穏やかな人柄で自然と気持ちが伸びやかに。活動を通して知覚を開放し、自分の直感に任せ、自分を表現し人と関わることを楽しむと自然に呼吸は深くゆったり。自分を取り戻したように感じた。さらに参加者が自分にとって、〝遊び仲間?になって心的距離感が変化したようにも思いました。

●林 真一郎さん(ハーブ研究家):
たとえば、音に意識を向けると、たくさんの音が重層的に自分の周りを囲んでいることにびっくりしました。私は常々、自然体験は森や海に行かなくても都会の中でも楽しめるのでは?と思っていたのですが、それを確信することができました。また、むしろ大人こそ体験すべきでは?と思いました。

●横山 将さん(カウンセリングツールメーカー勤務):
何気なく通り過ぎてしまう都会のちょっとした自然にも新しい感性で触れることができました。自然に触れ合う活動はいろいろあると思いますが、ネイチャーゲームはまるで遠赤外線でじんわりと体の芯か
ら温まるような、心地よい感覚でした。

●佐々木一岳さん(広告代理店勤務):
〈サンドマップ〉では音を聞きながら次第にリラックスしていくのがわかり、〈目かくし歩き〉では音や感触がよりリアルに感じられました。今回の体験を通して僕たちは自然から様々な恵みや恩恵を受けているのだと思いました。ただそこに身を置くだけでこんなにも心地よく癒される。自然に触れ合う大切さを思い出しました。

健康度は女性の方がアップ〈目かくし歩き〉は森林療法的!?
このような感想から、ネイチャーゲームの持つ癒し効果を皆さんそれなりに実感された様子がうかがえます。次は、体験後の自律神経の測定結果について。はたして癒し・健康効果は確認できたのでしょうか?

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降矢先生によると、自律神経の健康度(または疲労度)の指標としては、一般に健康人は30以上で、今回の7名の被験者を平均すると43・5(体験前)だったので健康人の範疇。体験後は平均43・6で、体験前とほぼ同じ。個々の変化を見ると、上昇したのが3名(男1、女2)、不変が2名(男女1名ずつ)、低下が2名(男女1名ずつ)。また、男女で若干の違いが見られたそうです(健康度は女性の方がアップ)。

交感神経と副交感神経のバランスを示す検査では、LF(交感神経の成分)とHF(副交感神経の成分)の比率である「LF/HF」が2以下であればリラックス傾向、2以上は緊張・興奮傾向と判断します。しかし、緊張・興奮状態は「ワクワクした」という活性化した状態も含まれているので、必ずしも悪いということではありません。

7名の測定結果は、体験前はLF/HF〉2(緊張・興奮)が3名(男1、女2)、LF/HF〈2(リラックス)が4名(男女2名ずつ)で、体験後も同じく緊張・興奮状態が3名(男2、女1)、リラックス状態が4名(男1、女3)。個々の変化としては、緊張・興奮状態に変わったのが3名(男2、女1)、リラックス状態に変わったのが1名(女性)、前後で変化がなかったのが3名(男1、女2)でした。

降矢先生の解説によると、緊張度が増したのは、人前での発表やシェアリングがあることや人との共同作業などの影響、あるいはゲーム的な要素があり、グループで行なうことの影響がうかがわれるそうです。また、今回の測定結果からははっきりとしたリラックス効果は確認できなかったものの、自律神経の測定だけが癒しや健康の評価基準になるわけではないとのことです。

癒し・ストレス緩和を重視した独自の森林療法プログラムを実施している降矢先生の個人的な感想としては、今回のネイチャーゲーム体験では〈目かくし歩き〉が一番やりたかったアクティビティで、「これは森林療法としても有用性が高い」と感じたそうです。その一方で、ネイチャーゲームにおける「発表とシェアリングをする意味合いなどが以前から気になっている」とも...。

癒しやストレス緩和を目的に来る疲れた人は、『評価から離れたい』という意識があるので、教育的な目的でやる時と、癒し・ストレス緩和の目的(森林療法的なスタンス)でやる時とでは、発表やシェアリングの時間を減らすなどの違いがあってもいいのかなと思います(降矢先生)

つまり、可能な限りストレスとなる要因を省くことで、より癒し効果が期待できるということ。だとすれば、ネイチャーゲームを実施する場所(環境条件)、アクティビティの選別、指導者のファシリテーションスキルなどによって、参加者のリラックス度にも違いが生じるのかもしれません。また、自然というフィールドも癒しの重要なファクターです。

ハーブやアロマテラピーの普及に尽力しているグリーンフラスコの林さんは、こう語ります。

私たちも『先生は自然!』とのスタンスでセラピストの教育に携わっていますが、ネイチャーゲームの指導員さんの役割(スタンスや技能)にはとても学ぶべき点が多いと思います。自然をベースにしたセラピーと自然体験活動を結ぶ意味でも、ぜひネイチャーゲーム協会さんと情報交換やコラボレーションをさせていただきたい

癒し・セラピーとネイチャーゲームの接点、それは、いかに自然のリズムと共振・共鳴できるか、ということではないでしょうか。今回は、ネイチャーゲームの潜在的な癒し効果と課題が見えたように思います。日本協会としては、今後も降矢医師や林さんらのご協力を仰ぎながら、さらなる検証を進めていく予定です。

取材・文/小笠原英晃
取材協力/降矢英成(赤坂溜池クリニック) 林 真一郎(グリーンフラスコ)
写真提供/小笠原英晃 編集部
構  成/編集部



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