※本記事は情報誌「ネイチャーゲームの森 vol.71」(2010年9月15日発行)より転載しています。団体名称、役職者名等について発行時の表記となっている場合があります。
都道府県生涯スポーツ担当者、市区町村生涯スポーツ担当者、合計1870箇所に対し、ネイチャーゲームの「認知度、期待および満足度、普及の現状と阻害原因、行政との連携の可能性と要望」についてアンケート調査を行った。回答率42.6%。
茨城県や三重県など、地域によってはネイチャーゲームをスポーツの一種目として捉え、指導者を「スポーツリーダーバンク」に登録し、市民からの問い合わせに応じて紹介しているところもあります。
しかしネイチャーゲームの「生涯スポーツ」としての認知度はまだ低く、2009年12月に日本協会が都道府県と市区町村の生涯スポーツ担当者を対象に行った意識調査では、ネイチャーゲームを知っている人は「聞いたことがある」を入れて全体の55%程度。そのなかで体験をしたことがあると答えた人は、知っている人の30%弱という結果でした。
かたや一般の人には「生涯スポーツ」の認識が低く、「高齢者スポーツ」と混同していることも少なくありません。「生涯スポーツ」は、文部科学省では「だれでも、いつでも、どこでも、いつまでも親しむことができるスポーツ」と位置づけられ、「明るく活力ある社会を形成していくうえで重要」だとされています。もちろんここには高齢者を対象としたものも含まれますが、生涯スポーツはより広い範囲をカバーするスポーツと考えるべきものです。
そこで、各地で行われているネイチャーゲームの活動のなかから、「心と体を健康に導く」生涯スポーツとして側面を色濃くもつ活動をご紹介します。
小学生ぐらいの子どもを対象とした活動の多いネイチャーゲームですが、最近では、乳幼児を持つ家族を対象とした「子育て支援活動」や、高齢者を対象とした活動も次第に増えてきています。
石川県でインストラクターをしている木谷一人さんが主催する『森の子育てサロン』には未就学児が集まり、毎回いくつかのネイチャーゲームを体験します。2歳ほどの子が、木谷さんが示した葉と同じものを見つけようと歩き、木や草に手を伸ばし、得意げに1枚の葉をにぎって持ってきます。正解、不正解は関係ありません。自然を見、手で触れ、香りを嗅ぐ。こうして自然のなかでの発見が楽しくなると、外で遊ぶ時間が増えてきます。それこそが大切なのだと木谷さんは考えます。
ネイチャーゲームはある程度ルールを理解できる年齢にならないと実施は難しいと思っている方もいるかもしれません。しかし乳幼児でもアクティビティによっては十分実施が可能です。
東京都東村山市狭山公園での活動『親子自然遊びプログラム』には、0~2歳というクラスがあります。ここには毎回小さな子を抱いたお母さんが集まり、親子でネイチャーゲームを楽しんでいます。フィールドビンゴの「チクチクするもの」を探して親子でいろいろなものを触わり、公園のなかを右に左に楽しそうに動きまわる様子はとても楽しげです。
と語るのは、指導をしている一般社団法人遊心代表の峯岸由美子さん。参加者のシェアリングは毎回「こんなに笑うんだ!」「こんなに歩くんだ!」というお母さんたちの驚きの声に包まれるそうです。
このような、自然のなかの発見に誘われて歩くことが楽しくなったという報告は、高齢者を対象に活動をする指導員からも聞かれます。指定されたカードと同じ色や同じ形のものを自然のなかから探す〈森の色あわせ〉や〈フィールドビンゴ〉などを夢中でするうちに、歩くのをおっくうがっていた人が数十メートルも歩いてしまうことはよくあるそうです。
新潟の有料老人ホームでネイチャーゲームの指導をしている庭田安治さんは、この活動をさらに広げ、今年10月に開かれる上越市社会協議会大会では、お年寄りに家族といっしょに半日歩いてもらう仕掛けを計画。1kmのネイチャーウォークをつくり、途中に〈カモフラージュ〉や〈目かくしイモ虫〉などを配して、親子3世代で楽しみながらゆっくり歩いてもらおうと画策中です。お年寄りが目隠し歩行などに挑戦することで、自分にもまだ十分な身体能力があることに気づいてほしいとの狙いもあります。
自然を味わうことで心が健康になり、無理なく体を動かすことで体が健康になる。ネイチャーゲームにはそのような仕組みがあるようです。
北海道教育大学スポーツ教育課程准教授 山本理人
「生涯スポーツ」という考え方が広まるにつれ、スポーツの内容はサッカーからガーデニングまで多岐にわたり、関わり方も「行う」「観る」「支える」など多様化しています。また、その目的も「自分自身への挑戦」から健康づくり、仲間づくりとさまざまです。
そのようななか、ネイチャーゲームを生涯スポーツという視点で見ると、とてもユニークな特徴があります。従来のスポーツは「速く移動する」「遠くに飛ばす」など外の世界に積極的に働きかける「能動的」なイメージでした。一方、ネイチャーゲームは「目をこらす」「耳を澄ます」「触れる」など、身体を感覚器として「受動的」に使います。この特徴は高齢者や障がいを持つ人の参加を容易にし、生涯スポーツの可能性をさらに広げるのではないかと期待されます。
災害時の避難所生活を送る人たちにとっても、心と体の健康は大きな課題となります。
というのは、阪神淡路大震災の避難所などでネイチャーゲームの指導を行った経験をもつ、日本協会自然災害対策委員会委員長の田中誉人さん。最初は心を閉ざしていた人が少しずつ周りに意識を向けられるようになり、花や鳥を見て「ちゃんと生きているね」と気づくようになると、多くの人が「普段の生活」の感覚を取り戻せるように思うといいます。
現在、フェニックス宮崎ネイチャーゲームの会には、口蹄疫が発生し家畜の殺処分が実施された地域から指導依頼がきています。日本協会では、こうした突然の災害に見舞われた方たちの心の健康をサポートするような活動を、今後も継続していく予定です。
取材・文/伊東久枝
取材協力/木谷一人 田中誉人 庭田安治 峯岸由美子 山本理人(北海道教育大学)
写 真/庭田安治 峯岸由美子 日本協会
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