この〝問い〟が、私たちを取り巻く課題を解決する「糸口」になる !?
ちょっとだけ視点を変えて、ネイチャーゲームを捉え直す新連載スタートです!
ネイチャーゲームの仲間も楽しんでいる「森の福笑い」というアクティビティをご存知ですか?自然を観察して、おもしろい顔の表情になりそうな部分を見つけ、顔のパーツを描き入れた丸や三角形の紙を木や葉っぱに貼りつけて、その表情を楽しむものです。
この活動は子どもたちの感性を磨く効果があるだけでなく、自然との共作となる芸術作品を生む創作活動でもあります。さらにこの活動を通して、「なぜ、顔に見えるのかな」「なぜ、木の幹にはごつごつしているものと、なめらかなものがあるのかな」などの、いろいろな問いも生まれてきます。子どもたちはその答えを求めて、長さを測ってみたり、ときには自分で「顔に見えるバランス」や「触り心地の違い」を確かめる模型を作ったりするかもしれません。
実はいつものネイチャーゲームや自然遊びは、このように学習が広がっていく可能性を秘めています。この教育の考え方に「STEAM教育」があります。ちょっとだけ視点を変えて、STEAM教育からネイチャーゲームを捉え直してみましょう。
STEAM教育という言葉は「STEAM教育って、要するにプログラミングのことですよね」「ものづくりがSTEAM教育なのでしょうか」などというように、最近いろいろな場面で見聞きするようになりました。ものづくりもプログラミングも確かにSTEAM教育の1つではありますが、それだけではありません。
ではSTEAM教育って、いったいなんなのでしょうか。
はじめに、「STEAM」の意味について考えてみましょう。
STEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathmatics(数学)の頭文字です。
AはArtsであり、文字通りアートになります。とはいえ芸術だけにとどまらず、リベラルアーツをも含む広い意味で捉えるのが一般的です。これらの学問領域の知識やスキルをフル活用して、主体的に課題を解決していくのが、STEAM教育のねらいとするところなのです。
まとめると、Sは自然現象から科学的な関係や法則を見つける、Tはものづくりを行う、Eは最適解を見つけるために試行錯誤する、Aは人間らしい感性を研ぎ澄ませる、Mは自然現象から数学的な関係や法則を見つける活動である、といえるのかもしれません。
このSTEAMの学びを、先程の「森の福笑い」に重ねてみましょう。アート(A)は自然との共作となる芸術作品ですし、長さを測ったりすることは数学的要素(M)ですし、模型づくりは技術的要素(T)になります。身近なところで、すでにSTEAM的なアクティビティを行っているのです。
ほかのエピソードを紹介しましょう。ネイチャーゲームをしていると、プラスチックのゴミが落ちていて、すごく残念に思ったことはありませんか。「どのようにしたら、ゴミを捨てなくなるのかな」「なぜプラスチックは消えないのかな」、感性が豊かな子どもたちほど、何か自分にできることはないのかなと思うはずです。そうなると、人間行動学や化学の知見が必要になり、これがSTEAM的な学びにつながっていくのです。
STEAM的な学びにつながる事例はほかにもあります。
ネイチャーゲームをしていて、コケに興味を持った小学校高学年の子どもがいました。コケは湿っていて、そんなに広がらない特徴に興味を持っていたようです。これを建物の屋上に置くことができれば、メンテナンスフリーの「屋上緑化システム」になるのではないか、と言うのです。
実はこの技術はすでに実用化されつつあるもので、そのアイデアが子どもからも出ていることがおもしろいところ。生存競争の中で生物が獲得してきた巧妙な仕組みを、工学的に応用する試みを意味する「バイオミメティクス」も、ネイチャーゲームとSTEAM教育をつなぐ、1つの結節点になるといえるでしょう。
ネイチャーゲームでは、子どもは内側に向かって静かに感性を研ぎ澄ませ、素朴な問いに気づき、私たち指導員はその問いに寄り添います。その一方で、「ネイチャーゲーム×STEAM教育」では、子どもの問いから外側に向かっていく〝課題を解決したい気持ちの広がり〟にも、目を向けていきます。
みんなが課題解決の主人公・当事者になれるって素敵なことだと思いませんか。子どもへの声がけや関わり方を工夫することで「自然が好き」のその先へ。このような提案をこれから数回に分けて紹介していきます
●ネイチャーゲームをもっと知りたい方は
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▶︎講師依頼をして自分のイベントで実施する
郡司賀透 ぐんじよしゆき
静岡大学学術院教育学領域准教授
静岡大学STEAM教育研究所所長
静岡市環境教育推進会議議長
ネイチャーゲームリーダー
茨城工業高等専門学校、長岡技術科学大学工学部卒業後、筑波大学大学院教育研究科修了。つくばエキスポセンター勤務。筑波大学大学院教育学研究科に入学し直してから、郡山女子大学短期大学部講師、准教授。保育者・子どもを対象にした自然活動を行う。2013年10月より現職。博士(教育学)(筑波大学)
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.40 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:藤田航平・豊国光菜子、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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