子どもたちが、今そこにある〝課題〟を発見し、解決する力を育む考え方のこと。
どのように実践でいかしていけばよいのでしょうか?
先日、子育て世代の知人から「大人もSTEAM教育について勉強したほうがいいんですか?」と言われました。私も同じ疑問を抱いたことがあります。私は、STEAM教育は、生涯の中で特に子どもの時期に、課題解決力を育むための「大人からの働きかけ」と捉えています。また生涯学習の視点から見ると、大人を対象にしたとき「教育」の語感は、しっくりきません。そのため、子どもと関わる大人には、「STEAM的な学び」とか「STEAM的な考え」を持ってもらいたいと伝えています。
ところで、私たちはみんな、「赤ちゃんのときから科学の眼差しを持つ探究者」であるといわれることがあります。ハイチェアに座ったり乳母車に横たわったりしている赤ちゃんは、大人が物を拾い、赤ちゃんに物を返してあげると、何度でも物を落とします。見方によっては、赤ちゃんは繰り返し〝実験〟を行っているのです。
乳幼児の時期から私たちは、多かれ少なかれ自然を体験しています。
今回はその自然体験を、子どものSTEAM的な学びに発展させた優れた実践事例を紹介しましょう。
静岡県内にある「ふじのくに地球環境史ミュージアム」のインタープリターである山根真智子さんが、小中学生を対象に2020年8月25日にに実施したプログラム『土と生き物のすみか』です。プログラムの主人公は、幼児のときにはおなじみだったダンゴムシ!
はじめに、児童は身近にある土(グラウンド、花壇、森)について感覚を通して調べていきます。児童は、においや粒の大きさ、色が違うことを発見したり、土に含まれている種や枯れ葉などの違いに気づいたりします。
つぎに、その環境にいるダンゴムシについて3つのミッションに取り組みます。
①ダンゴムシを捕まえる
②ダンゴムシを飼うために必要なものを採集する
③ダンゴムシのいるところといないところの環境の違いを調べる
といった活動です。その後、みんなでダンゴムシ会議を行い、ダンゴムシが好きな環境、苦手な環境をまとめます。
さて、ここからSTEAM的な学びが始まります。はじめにスマホ顕微鏡を用いてダンゴムシの観察を行います。足や節、触覚の数や雌雄を観察したあと、各々が、ダンゴムシのカッコいい、またはかわいいと思うところを写真で撮ります。これはA(アート:芸術)に相当する活動です。そのベストショットを理由とともにみんなで共有します。
それから、テラリウム(ダンゴムシの飼育ケース)をデザインします。この部分は、(エンジニアリング・・・工学)に相当する活動です。テラリウムの中に、ダンゴムシを何匹入れるのか、採集してきた葉っぱや土などをどのように配置するのか──これらをワークシートに設計図として描いていきます。動物が生きていくために必要なもの(水、食べ物、隠れる場所、休む場所、生活空間)を意識しながら、児童は各々のアイデアでテラリウムを作って、それぞれ自宅に持ち帰り、継続的に観察していきます。
WEB上の情報共有サイトには、
「ダンゴムシは夜行性と聞いたので、夜8時20分頃に観察しました。すると、とても元気よく歩き(走り)回っていました。動いているダンゴムシを久しぶりに見れて、とても嬉しいです」
「今日は5時20分頃に観察しました。3匹とも石の下にいました。やはりダンゴムシは石の下が好きなのかなと思いました」
「煮干しを食べていたのでカメラで撮影しました!夜こっそり食べていたのでビックリ!」
など、たくさんの観察や感想が寄せられていました。
「ダンゴムシを飼う」という大人から与えられたテーマが、子どもにとって〝ジブンゴト化〟された課題になりうるのか──議論の余地はあるでしょう。
しかしこのプログラムのポイントは、実は「デザイン」にあります。ダンゴムシを育てる環境のデザインを通して、子どもは幼児の頃に丸めたりして楽しく遊んだ記憶を想起しつつ、生きものが育つ条件を考えながら、試行錯誤しつつ生態系について学びを深めていくのです。
大人が「STEAM的な考え」、STEAM的な学び」に基づく働きかけができるようになることで、児童の感性と課題解決力を育み、多様な学びを生み出していく。これは大人にとっても楽しいことだと思いませんか?
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郡司賀透 ぐんじよしゆき
静岡大学学術院教育学領域准教授
静岡大学STEAM教育研究所所長
静岡市環境教育推進会議議長
ネイチャーゲームリーダー
茨城工業高等専門学校、長岡技術科学大学工学部卒業後、筑波大学大学院教育研究科修了。つくばエキスポセンター勤務。筑波大学大学院教育学研究科に入学し直してから、郡山女子大学短期大学部講師、准教授。保育者・子どもを対象にした自然活動を行う。2013年10月より現職。博士(教育学)(筑波大学)
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.42 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:藤田航平・豊国光菜子、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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