〝木こりのタジー〟として、森林の手入れ、薪の生産はもちろん小・中学生の森林体験や環境教育、市場で売れない木材の活用事業などを展開し、ネイチャーゲームリーダーとしても活動している田實健一さん。
日々、新たな林業の確立に奮闘している田實さんにとって木こりとは?理想の森とは?どんな姿なのか伺いました。
合同会社 新城キッコリーズ代表
田實健一(たじつ けんいち)
愛知県指導林家、ネイチャーゲームリーダー、自然公園指導員、自然観察指導員。オートバイで全国を旅する途中、中越地震に遭遇。壮絶な自然災害を目の当たりにし「災害に強い山を作りたい」とIターンをして17年前(2005)に林業の世界へ。生態系を崩さず、かつ事業として成立する森づくりをめざし7年前(2015)に起業。持続的な森林経営を目指す森林業を営む。
新城市内の小・中学生向けの森林環境授業で冒頭、そう自己紹介する新城キッコリーズ代表の田實さん。
授業にはネイチャーゲームや伐採体験、木の年輪をイメージできるバウムクーヘンづくりなども盛り込まれ、とても楽しそう。子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきそうです。
授業は雨が降った場合の予備日も設定して、必ず屋外。それは座学ではなく、森での体験を重視している田實さんのこだわりです。
森で何かあったら、走れないほうが危ないでしょ。あらかじめ危険なものは全部取り除いておくけど、滑って転ぶくらいはよくあること。学校で教わらないこういう体験も、僕たちが教える必要があるのかなと思っています
ネイチャーゲーム〈フィールドビンゴ〉で木や土の匂いや感触、 風や木もれ日などを五感で味わってほしい!
あるときはデザイナーのタジー
キッコリーズのある愛知県新城市は約83%が森林で占められ、そのほとんどが人工林。現在は30年間放置されていた山に入り、間伐と伐り出された材の搬出、販路構築をしています。
林業を成立させるために、木材生産は必要。でも同時に、森を守ることも必要だという田實さん。自らの業種を〝森林業〟と呼ぶ理由もそこにあります。伐採のために山に通す道幅は2m程度で、重機の幅は軽トラック1台分くらい。もっと広い道、大きい重機であればより多くの材を搬出できますが、木を伐りすぎないよう、傷めないようにと森の未来に配慮した結果です。選木や伐倒も、いかに森を守るかが基準の一つだそう。
環境への影響を最小限に抑えるため、柔軟にそして熟考して木を選び、伐っていく。そこには〝森のデザイナー〟としての田實さんの顔がありました。
そしてまたあるときは木材商人のタジー
新城キッコリーズが伐採する木の90%はカミキリムシの幼虫が食べた跡が残る枝虫材。成虫が枯れた枝の根元に卵を産み、幼虫になって木の中を食害したもので、強度に問題はないものの、見栄えが悪いので市場では売れない材として扱われます。伐った木が売れなければ、木こりは生きていけません。田實さんは、この枝虫材の有効活用、ブランディングも事業して行っています。
伐った木を薪にして使ってもらえれば、地元に貢献もでき、利益も出る。一つの道が開けのです。新城キッコリーズのロゴマークが燃えるヒノキ(火の木)をモチーフにしているのも、なるほど、こうした歴史があるからなんですね。さらに、薪にするために積んであった丸太を見た工務店が「燃やすのはもったいない」と買い取ってくれたのをきっかけに、市場でも売れはじめて、少しずつ利益が出てきているのだとか。
雨で現場作業ができない日は、残った丸太をおしゃれなプレートに加工してイベントで売ったり、森林環境授業で子どもたちにプレゼントしたり。枝虫材の価値を上げながら、利益を生むアイデアを常に模索しています。
森林環境授業では枝虫 材の存在を子どもたちに知ってもらうことも
はたまたまたあるときは社長のタジー
新城キッコリーズは田實さんを代表として、柴田健司さん、小柳津(おやいず)孝之さん2人の木こりも働いています。田實さんの森に対する思いや理念に惹かれ、異業種から転職してきました。チェーンソーを持つ姿がすっかり様になっている2人ですが、森の未来を見据えてデザインしながら、選木・伐倒をするにはまだ経験が必要だと田實さんはいいます。
だからといって、田實さんの考えと同じであることが良いというわけではないとも続けます。
正解にとらわれず、お互いの考えをわかちあう感覚を身につけるにはネイチャーゲームが適していると田實さん。そして、その感覚を林業界にも広めようと市の森林課にかけ合い、ネイチャーゲームリーダー養成講座を市主催で行う企画も進めています。新城キッコリーズの2人にもリーダー資格を取得してもらいたいのだとか。木こりとしての感性と思考力、そして自ら行動する力。それらをどう磨いていって、仲間を育成するかも田實さんのこれからの仕事です。
そしてなにより子どもたちに大人気 表現者のタジー
森そして林業の、今とこれからを多くの人に知ってもらいたいと、さまざまな形で発信している田實さん。とくに子どもたちへのメッセージや問いかけを大切にしています。
でも、知ってもらうことで、現在の森の問題を考えるきっかけになり、いつかの地域の山を『どう生かしていこうか』と考えられる大人になってほしいと願っています。
答えを教えるのではなく、 子どもたちに考えてもらう
最後に田實さんが考える理想の森の姿を尋ねると……。
そして、もっと人が気軽に入っていける森が増えたらとも。
だからこそ、木こりのような案内人が絶対に必要だと田實さん。子どもたちへの授業は、そんな森への初めの一歩なのかもしれません。
木は「倒す」のではなく「寝かす」... 愛ある木こりの言葉を伝える田實さん
森の未来を描くNature Game〈森の設計図〉
もし、自分の森があったら? いろいろな森の姿を思い出しなが ら、どんな森にしたいかを自由に 描くゲームです。森の中の生きもの、木、葉、実など自然界のつながりを考えながら自分だけの森をイメージしてみましょう。
※情報誌「シェアリングネイチャーライフ」Vol.38 特集(取材・文:茂木奈穂子 編集:藤田航平・豊国光菜子、校條真(風讃社))をウェブ用に再構成しました。
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